内容説明
ニーチェが後年「危機の記念碑」と呼んだ『人間的、あまりに人間的』の続巻。同書の翌年にひきつづいて刊行された『さまざまな意見と箴言』と『漂泊者とその影』という二つのアフォリズム集の合本である。ヴァーグナーとの精神的訣別と自身の肉体的な病苦のうちに書き進められながらも、科学者の冷徹な懐疑の心をもって生成の必然的な相貌をとらえ、宗教的・形而上学的な虚装、因襲的・道徳的な価値判断の彼岸に立とうと試みた転換の書。
目次
第1部 さまざまな意見と箴言
第2部 漂泊者とその影
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
∃.狂茶党
17
遊びの余地を見出して、ニーチェはより自由に語れるんだろうけど。 女性に対する視点など、反発を覚える文章も多々あるが、そもそも意味が掴みかねる文章もいくつかあり、訳註を読んでると、翻訳者も理解できてないっぽかったり。 ニーチェについて語ることは面白いのかもしれないな。全集を読むことは、作者を読むことでもあるよな。 2023/07/18
shinano
13
ニーチェの箴言には読みながら考えることが多い。どういう洞察からこの様な考察となったのだろうと考えて読んでいる。あっさりとした箴言はほとんどないように思える。理性的な面白みもあるが、多くはニーチェの学術的言説と精神的言説が混ざり合っているので、ニーチェが読破してきた書物の知識の沿革を、読み手がそこそこに持っていないとやや苦痛な部分もある。芸術家への否定的な箴言には本書執筆後に決裂したヴァーグナーの影がある。また、厭世主義への批判にショーペンハウアーの価値観や宗教観否定が見られる。でも、いい一冊である。2011/12/30
34
10
この本の第2巻『漂白者とその影』に収められたいくつかのアフォリズムからはじめてニーチェがニーチェ自身のものとなったという印象を受ける。その快活で、遊戯的で、技巧を凝らしたアフォリズムはニーチェが彼の生涯でも最悪の健康状態のなかで書かれたというから驚きだ。ニーチェとともにアフォリズムは類例のない全的批判の方法と化し、文体の彫琢によって独立を保証されたその鋤は、生を梃子として理想という建造物を掘り返す。2021/12/31
roughfractus02
4
認識と存在の対立を相対的とし、さらに解釈の優位を対置するのが著者の立場だと見なすなら、「あらゆる価値の価値転倒」の目論見は形而上学批判に留まり、主観的な解釈自身に普遍性を付与する点も奇異に思える。が、本書はそこに「漂泊者」という姿勢を与え、立って見るテオリア(観想)を根幹とする形而上学的姿勢を揺さぶる。解釈の優位を与える芸術領域にも形而上学を見出す著者はワーグナー批判に回りつつ、さらに普遍性を「漂泊者」の特異性の対として設定し、一般性/個別性なる従来の形而上学的対概念に対抗するパースペクティブ主義を採る。2017/08/06
愁
4
上巻に引き続き、パワーとユーモアのある詩として。この後の箴言集よりは若干文章に硬い感じがありますが、訳者の違いからでしょうか?相変わらずの時代を越えた鋭さは気持ち良いです。