内容説明
本書は、1958年、雑誌記者としてベネズエラに入国したマルケスが遭遇したペレス・ヒメネス独裁政権の崩壊と当時の民衆の生活に取材したルポルタージュである。この時期は、ジャーナリストとして頂点を迎えたマルケスがしだいに小説家ガルシア=マルケスに移行していく、いわば転換期にあたっており、のちの小説の核となった出来事も多く含まれている。
目次
市民が通りを埋めた日
戦う聖職者
命の猶予は十二時間
杭につながれて四年
潜伏からの帰還
さよならベネズエラ
七つの死―真相を追って
1958年6月6日、干上がったカラカス
ベネズエラは犠牲を払うに値する
ベネズエラを揺さぶった七十二時間
続七十二時間・憶測の彼方で議長は一服
貧困のなかの楽園
セネガルの譲渡
1 ~ 1件/全1件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
166
マルケスのベネズエラでのジャーナリスト時代の記事を収録したもの。独裁者ペレス・ヒメネス打倒に団結したカトリックの司祭たちを描いた「戦う聖職者」など政治的な記事が中心だが、「杭につながれて4年」のようなトピックス的なものも。いずれも1958年の記事なのだが、そうした時事性の強いはずの内容が今もって古びた感がしないのは、マルケスの筆法によるものか。また、ここには当然のことながらマジック・リアリズムは入り込む余地がないのだが、あのような世界の構築の基盤には、現実を見つめ、それを活写する文章修業があったのだろう。2014/12/30
eirianda
11
ルポタージュの記者として、クーデターや天変地異の中にいる人を描いた経験が、『百年の孤独』のような名作に繋がったのだなぁ。速報性を無視した新聞記者を受け入れる、中南米の鷹揚さ…それ自体が日本の小市民の私にとって、不条理の世界だわ。そりゃ、マジックレアリズムが生まれるはずだ。2016/12/21
Vakira
7
ガブリエル・ガルシア=マルケスさんは4/15日に亡くなってしまった。ご冥福をお祈りします。この本は題名からして駆け出しの小説家の売れない頃の青春物語だと思っていましたが、実はガルシアは小説家の前は記者でその時のルポ集でした。これがまた面白い。独裁者がクーデターののち捕まる話、妻と喧嘩して家を飛び出した若者が、畑仕事をしているとインディオに捕まってしまい、30年も杭につながれ家に帰れない話、カラカスの水危機の話、狂犬病にかまれ狂犬病に侵されつつある子供を助ける話などなど。2014/04/26
masawo
6
短編集と勘違いして購入したところ、記者時代のルポルタージュを集めたものと判明。でも読んでみると語り口がマルケスの小説と殆ど変わりなかった。ノンフィクションなので比較的クセがなく読みやすかったので、マルケス一冊目に適していると思う。2018/09/07
OjohmbonX
5
週刊誌のルポなのに一行目から小説っていう。時間の密度を圧縮させた状態から一気に解放されるとやっぱり生理的に気持ちがいい。作中の時間が的確にコントロールされる。どの短編も具体的な日時を示して、数十分~数十時間くらいの出来事として中身が具体的に描かれていくけど、途中や最後でいきなり数年、数十年の広がりを見せられる。あるいは「命の猶予は十二時間」のように大急ぎの時間が描かれてから母親の無知の緩やかな時間が最後の最後に対置されて、強いコントラストにうおーって感じ。どんなモチーフでも異様な鮮やかさで捉えられていく。2015/05/15