内容説明
自然界に満ち満ちた目に見えない生き物、この世ならぬものたちと丁寧につきあってきたアイルランドの人たち。イエイツが実際に見たり聞いたりした話の数々は、無限なものへの憧れ、ケルトの哀しみにあふれて、不思議な輝きを放ち続ける。
目次
時は滴り落ちる
妖精たちの群れ
話の語り手
信じることと信じないこと
人間が力を貸すこと
幻を見る人
村の幽霊たち
「塵がヘレンの目を閉じさせた」
羊の騎士
耐える心
妖術師
悪魔
幸福な理論家と不幸な理論家
最後の吟唱詩人
女王よ、妖精の女王よ、来たれ
「そして美しく恐ろしい女たち」
魔の森
不可思議な生き物たち
本のアリストテレス
神々の豚〔ほか〕
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ずっきん
55
イエイツ自らが蒐集したアイルランドの民話と伝承。以前、芥川訳の面倒臭さにぶん投げたが、こちらはとても読みやすく、かつ染み入る訳。わたしには珍しくゆっくりと、とても大切に読んでいった。幼い頃からケルトの妖精達の物語が好きだった。歳を重ねた今でも、それは琴線に触れるどころではなくあらゆる旋律をかき鳴らす。イエイツの素晴らしいところは、やはり記録ではなく文学に仕立てあげているところ。「人を彼方へ誘う言葉や想いを持たない家々の間では、歌や物語はつたえられない」薄明のアイルランドの大地と海へと誘われる、名著。2019/08/03
新地学@児童書病発動中
36
詩人、劇作家イエイツがまとめたアイルランドの伝説。妖精や幽霊などが出てくる。現実の世界と地続きになった仄暗い幻想の世界は魅力的だ。超自然的なものたちを、非科学的と決めつけるのは考えものだ。利益や効率ばかり追求していると人間の心はおかしくなってしまうので、ここでイエイツが描いている世界に浸りきることも時には必要だろう。実際に妖精が農夫の家に来たエピソードを含んでいる21の「疲れを知らぬ者」が、一番面白かった。2011/02/19
シュシュ
29
昔話の良さを確信した。「取りとめのない野放図な昔話は、ありのままの素朴な人生をしいられ、貧しく厳しい生活に追われる人々を楽しませるもの。われわれも弱く貧しい人間であり、何をしても不幸になりそうな心配があるなら、力にあふれた昔の夢を片っ端から思い起こして、肩に背負っているこの世の重荷を、放り投げてしまえばよいのだ。話の語り部よ、心が望む餌食はなんであれ捕らえて、恐れずに続けていって欲しい。すべてのものは存在するのだし、すべてのものは真実なのだ。この地上はわれわれの足元の下の小さな塵に過ぎないのだ」2019/07/09
おおた
27
アイルランド版「遠野物語」。スコットランドでは妖精が悪をなし、アイルランドで隣人として語られるというところが興味深い。途中の入り組んだケルト文様の挿絵も見事で、荒々しい環境の中で生まれた美しさが原石として転がっている。意外にとっつきやすく読みやすいのだけど、似たような話が多いのでそれぞれが明確に記憶に残りづらいのは日本のと同じ。巻末近くの「教訓のない夢」がタイトルに反して物語性が強い。歴史が文学になるところがいいです。2015/11/05
マリリン
26
2篇の詩と、この本についてから始まる本書は40の民話?や詩が書かれている。妖精や不思議な登場人物が「薄明」の中を行き来する様は、幻想的であるものの自然界の神秘的な出来事を大切に扱っている著者の心が伝わってくる。「教訓のない夢」は「シンデレラ」に似ている。今まで読んだケルト関係の本の中では、一番美しく幻想的な情景が脳裏に浮かぶ。この作品には美しいイラストが似合いそうな気がする。2019/01/17