内容説明
埋もれた西洋館を求めて東京の町を歩く、建築探偵団が見つけた白金の旧朝香宮邸(現・東京都庭園美術館)は、アール・デコの造形にあふれていた。女神のように翼を広げる女人像のある玄関扉はラリック作、大広間にはブランショ作のレリーフ、次室に立つセーブル製の香水塔…。日本におけるアール・デコ様式の流れと旧朝香宮邸をカラー写真をふんだんに使いながら紹介してゆく。第9回伊奈信男賞受賞作。
目次
旧朝香宮邸―現東京都庭園美術館
日本のアール・デコ(崩れゆく様式;一九二五年パリにて;鉱物感覚の発見;朝香宮邸の誕生)
著者等紹介
増田彰久[マスダアキヒサ]
1939年東京生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業。日本写真家協会会員。写真家。1985年、『アール・デコの館』で第9回伊奈信男賞を受賞
藤森照信[フジモリテルノブ]
1946年長野県に生まれる。東北大学工学部建築学科卒業。東大大学院修了。現在東京大学教授。著書に『明治の東京計画』(岩波書店・毎日出版文化賞受賞)などがある(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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夜間飛行
92
白金にある旧朝香宮邸。まず玄関の曇硝子に刻まれている孔雀の羽を広げた女人像に目がいく。壁、天井、柱…全てが冷ややかなアール・デコに覆われている。唐草文や波形を隠し味に、曲線と直線の交わる幾何学的で硬質なデザインが主調を成しながら、ラリックの硝子、ラパンの壁画などが心地よい開放感を作り出している。果実や星などを象ったシャンデリアが、部屋ごとに異なる世界を見せてくれる。説明ぬきでいきなりアール・デコの館に迷い込んだ気分だ。モノクロで紹介されているパリのアール・デコ博も含めて、文庫本とは思えない臨場感に浸った。2019/07/14
かっぱ
30
【再読】先日、念願かなって訪れることができました。やっぱり、本物はすごかった。しかし、朝香宮妃殿下は、引っ越し後、間もなく病に伏して、貼り上がったばかりのスイス製の花柄の壁紙を見ながら急逝されたというのは意外な真実でした。2015/08/05
ホークス
19
建築の知識は皆無だが面白く読めた。自分の理解では「曲線強調のアール・ヌーボー」「合理と直線のモダニズム」等の革新運動に対し、旧来の様式派(ギリシャ、ゴシック、バロック等)が打ち出した革新がアール・デコだった。その宣言の場が1925年のアール・デコ博(パリ)で、アメリカは大きな影響を受け日本では無視された。ところが偶然の巡り合わせで皇族朝香宮の新邸がアール・デコ様式となった。この本は朝香宮邸の写真多数と要を得た解説で当時の建築状況に触れられる。植物のアール・ヌーボーに対し、鉱物のアール・デコということらしい2015/11/22
りー
14
藤森さんが建築探偵の活動を始めた1970年代、現「庭園美術館」であるこの建物はまだプリンスホテル所有の迎賓館だったそう。愛情をこめ、明治以来の建築様式の変遷と、建物の由来を解説されています。朝香宮は、洋行中に交通事故にあい、フランスで静養することになります。フランスでの生活が馴染んだ1925年、パリで開かれたアール・デコ博覧会へ夫妻で足を伸ばし、新しい建築様式に心奪われ、新居にそのまま取り入れることにしました。建築にあたっては、アンリ・ラパンがパリで引いた図面を、宮内省内匠寮が統括して仕上げたそうです。2020/04/07
かっぱ
12
日本に数少ないアール・デコの館を写真と文章で紹介。写真が7割近くを占めています。アール・ヌーヴォーとアール・デコの違いがいまひとつ分かっていませんでしたが、藤森先生のおっしゃるように、植物と鉱物の違いと捉えると分かりやすい。とにかく美しい写真が満載です。旧朝香宮邸は東京都庭園美術館として一般公開されているようなので、機会があれば訪れてみたいです。2013/11/15