内容説明
「あの外套はいったいどこに消え失せたのだろう?」―遠い昔に失われた一着の外套を探して、〈記憶の迷路〉を巡る“わたし”。その記憶と現実とに挾み撃ちされた姿を通して、鋭く現代の存在の不安を描出した問題作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
hirayama46
4
過去と現在、記憶と体験、フィクションとフィクション、いろんなものから挟み撃ちされています。生活というものは挟み撃ちの連続であります。適切な「挟まれかた」とは何なのでしょうね。2016/12/27
misui
4
ある四十男が「とつぜん」思い出した外套の思い出を頼りに、来し方をたどり直して自己を探求する魂の旅……になるはずが、道中でくり広げられるのはなんとも胡乱な独白の数々である。ロシア文学を中心とした文学談義や満州の思い出など、ところどころ思わせぶりなフックはありながらも、最後まで読めばこれは一冊使った肩透かしで、自己を掘り下げるタイプの文学作品に対する見事なアンチテーゼになっている。まあ「釣りでした」と言ってくれるだけ親切というか。宇野浩二「蔵の中」と比較して読みたい。2011/10/29