内容説明
遊びや職業活動に必要な知識・技能を身につけていくとき、人が必要を超えて上達を望み、理解を深めようとするのはなぜか。日常生活での能動性と有能さを支えるものはなにか。本書は伝統的学習観による「人間怠け者」説をくつがえし、「みずから学ぶ存在」としての人を実証的に描き出して、学び手の心的装置と文化の役割を探求すると同時に、「学習」のもつ暗いイメージを再考し、新しい学習観にもとづく教育のあり方を提言する。
目次
第1章 伝統的な学習観
第2章 現実的必要から学ぶ
第3章 知的好奇心により学ぶ
第4章 ことばや数を学ぶ種としてのヒト
第5章 文化が支える有能さ
第6章 文化のなかの隠れた教育
第7章 参加しつつ学ぶ
第8章 知識があるほど学びやすい
第9章 日常生活のなかで学ぶ知識の限界
第10章 新しい学習観にもとづく教育
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
きいち
33
引き算の原理を理解するのに貢献したと皆が感じたのが、「だって男の子から女の子はひけないじゃん」と考え誤答した児童だという事例がとてもいい。そう、実際、これは子どもの学びにとどまらない。商売の場面で「既有知識に欠けた」人物の指摘がいかに効果的であることか。◇一方で知識の重要性も、この本は合わせてとことん指摘する(これも大人の学びと共通だ)。反復練習だって必要。要は、判断停止する部分と疑う部分のバランスをいかにとるか。そこにも答えはない。◇断定できるのは、宙ぶらりんであり続けられる環境を作る勇気の重要性のみ。2016/06/03
りょうみや
16
認知科学、教育心理学に基づいて、伝統的な学習観(教室で教師が生徒に知識を伝達)を批判し、新しい学習観として今でいうアクティブラーニングを推奨する内容。多くの具体例を交えてわかりやすく書かれていて、30年以上前の発行なのだが今でも十分通用する。2021/01/14
isao_key
9
日常生活の中で、子どもたちはどのように学ぶのか。また人がいかに有能な学び手であるか例を挙げて論じる。日本人が英語、特に会話が不得意である理由について、学生に何のために英語を学ぶのかを問うと、外国人と意思疎通ができるようになるためという答えが多く返ってくる。しかし日ごろ、英語を話す外国人と接する機会の少ない日本人にとって、この目標は現実的必要性に乏しい。将来出会うかもしれない外国人とのコミュニケーションに備えて一般的な準備をしておくしかないため、どうしても文法や発音中心の正しい文を話すことに重点が置かれる。2018/09/12
Kei
9
脳科学関連の本かと思ったが、実際は教育に関連している。人間の認知、学習能力について詳しく実例を使いながら述べており、興味深かった。2016/03/23
marukuso
5
学ということはただ誰かに教えられることだけでなく、主体的に学ぶことも含まれる。それは子どもも同じで、決して受身的な存在ではない。一方で知識がないと学び方にも違いが出てくる。誰かに教えられて得た知識をうまく扱いさらに発展させることも学びの一つである。このバランスが大事なのだと思う。主体性がことさら強調される昨今だが、そもそもの知識を伝えること、考える土台を築くことももっと考えてもいいと思う。2019/01/14