出版社内容情報
北の大地で男と女の嫉妬と欲望が蠢めき出す。子どものように無垢な若い女性の出現によって――。余りにも濃密な長編心理サスペンス。
道東釧路で図書館長を務める林原を頼りに、25歳の妹純香が移住してきた。生活能力に欠ける彼女は、書道の天才だった。野心的な書道家秋津は、養護教諭の妻玲子に家計と母の介護を依存していた。彼は純香の才能に惚れ込み、書道教室の助手に雇う。その縁で林原と玲子の関係が深まり……無垢な存在が男と女の欲望と嫉妬を炙り出し、驚きの結末へと向かう。濃密な長編心理サスペンス。
内容説明
道東釧路で図書館長を務める林原を頼りに、25歳の妹純香が移住してきた。生活能力に欠ける彼女は、書道の天才だった。野心的な書道家秋津は、養護教諭の妻伶子に家計と母の介護を依存していた。彼は純香の才能に惚れ込み、書道教室の助手に雇う。その縁で林原と伶子の関係が深まり…無垢な存在が男と女の欲望と嫉妬を炙り出し、驚きの結末へと向かう。濃密な長編心理サスペンス。
著者等紹介
桜木紫乃[サクラギシノ]
1965(昭和40)年、北海道釧路市生れ。2002(平成14)年「雪虫」でオール讀物新人賞を受賞。’07年同作を収録した単行本『氷平線』でデビュー。’12年に『ラブレス』で「突然愛を伝えたくなる本大賞」、’13年に同作で島清恋愛文学賞、『ホテルローヤル』で直木賞をそれぞれ受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ミカママ
256
誰も幸せになっていないのに、それでいて、みなが落ち着くところに落ち着いたのかな。純香がひたすらに純粋で切ない。彼女の存在が他の大人たちのズルさを浮き上がらせる。道東の四季の移ろいが印象的で。桜木さんの作品中、個人的ベスト3に入ると思います。2016/08/24
じいじ
119
気持ちを激しく揺さぶられながら、胸奥に静かに沁み込んでくる、いつもの桜木小説の読み心地です。書道家・秋津龍生の夫婦と図書館長・林原兄妹の四人を芯にして語らます。四人の繊細な心情のウラとオモテが、丁寧に描かれているのが面白い。とりわけ、純粋で無垢な書道の天才純香に対する、書道家・龍生の憧れと嫉妬の感情描写が印象に残った。桜木作品の中でも、上位に数えたい傑作の長編小説だと思います。2018/10/29
まさきち
105
龍生も、怜子も、信輝も、里奈も詐病の母も、誰も好きになれなかった。でも彼らのように何かをごまかしながら生きている部分は自分の中にも少なからずあるのかな、そんなことを思いながらの読了です。2019/08/10
dr2006
95
湿原を湛える釧路という街は、自然の色が勝り決して彩りは鮮やかではないが、桜木さんが描く人々はいつも艶やかで激しい。今作も期待通りの感動に苛まれた。書道家秋津龍生とその妻養護教諭の伶子、図書館長の林原信輝とその妹純香の物語だ。林原の図書館で小さな個展を開いた秋津は、純香の真っ直ぐな感想と記帳の字の美しさに驚く。純香は皮下で醸成していく人々の野心や腐心を、フィルタや忖度無しに口外することができる。無垢の存在に周りは暗に扇動され、嫉妬と欲望がモノトーンの世界で艶めかしく発光するのだ。夢中で読んで深く刺さった。2020/03/15
アッシュ姉
84
波風の立つ本音は心の奥底へしまい込み、見たくないものには蓋をする。何かに縛られ、何かを諦めながら辛うじてバランスを取っている。一見平穏な人間関係の中に舞い込んだ純真無垢な存在。彼女の真っ白な存在が、周囲の黒い感情を浮かび上がらせていく。相手を思いやって本当のことは言わない、自分から決定的なことは言い出さない。わたし自身も思い当たることがあるが、無垢な存在を通してみると酷く狡い行為に思えた。湿り気を帯びたどんよりした空気が重くまとわりつくような読後感。飲み込めないところもあったので要再読。桜木さん八冊目。2016/08/01