出版社内容情報
島帰りの男が刺殺され、二十五年前の迷宮入り強盗事件を洗い直す伊之助。意外な犯人と哀切極まりないその動機――シリーズ第三作。
内容説明
元は凄腕の岡っ引、今は版木彫り職人の伊之助。定町回り同心石塚宗平の口説きに負けて、何者かに刺殺された島帰りの男の過去を探るはめに。綿密な捜査を進め、二十五年前の三人組押し込み強盗事件に辿りついた時、彼の前に現れたあまりにも意外な犯人と哀切極まりないその動機―江戸を流れる河に下町の人々の息づかいを鮮やかに映し出す長編時代ミステリー。シリーズ第三弾。
著者等紹介
藤沢周平[フジサワシュウヘイ]
1927‐1997。山形県生れ。山形師範卒業後、結核を発病。上京して五年間の闘病生活をおくる。’71(昭和46)年、「溟い海」でオール読物新人賞を、’73年、「暗殺の年輪」で直木賞を受賞。時代小説作家として、武家もの、市井ものから、歴史小説、伝記小説まで幅広く活躍。『白き瓶』(吉川英治賞)、『市塵』(芸術選奨文部大臣賞)など、作品多数
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ゴンゾウ@新潮部
117
彫師伊之助シリーズ3作目。島帰りの長六殺しの犯人をわずかな手がかりから追い詰めていく。江戸時代のハードボイルド。男くさい作品。これで完結してしまうのは惜しい。2020/02/18
じいじ
88
ひとたび事件が起きると、この主人公は〈昔とった杵柄なのか〉捕物への意欲で胸が疼き出します。昔の仲間に「このヤマは、奥が深え殺しなんだ。頼む手伝ってくれ!」と頭を下げられると、仕事の段取りもそこそこに仕事場を飛び出してしまいます。今作の事件は、30両の大金を懐にした、島帰りの男が殺されます。30両の出どころはすぐに判明しますが、その裏に隠れた真相は…、伊之助が丹念に解きほぐしていきます。藤沢周平の描くハードボイルド小説…親も女房も子供もいない、一匹狼の男を主人公にした、この三部作はいかしています。2022/08/27
ふじさん
76
彫師伊之助シリーズの第3作目。島帰りの長六が刺殺される事件を探索する中で、二十五年前の三人組押し込み強盗事件に辿りつき、意外な犯人と切ない動機が明らかになる。江戸を流れる河に江戸の下町の人々の息遣いが鮮やかに描かれた長編ミステリーシリーズ。続きがないのが残念だ。後ろの関川夏央の解説が的確でいい。面白いシリーズだった。 2020/12/30
真理そら
75
再読。彫師伊之助シリーズ3.最終巻。『消えた女』では伊之助自身の過去の陰りのようなものが感じられたけれど最終巻ではそれがなくなっている。余命わずかになったある登場人物が河の音を聞きながら自分の人生を振り返るシーンが印象的。最初の妻子を理不尽な形で失い、明るい後妻と子供に恵まれて幸せに生きていたはずなのに人生の終盤でのこの孤独感はなんだろうと痛切な思いにとらわれてしまう。それにしても彫師として腕が立つわけでもないのにこの勤務ぶりwいい親方だなあと思う。2020/09/24
タツ フカガワ
70
伊之助が道で倒れていた老いた男を自分の長屋に連れて帰って数日後、その男長六が殺される。しかも懐に三十両を入れたままで。長六は島帰りで、二十五年前の商家押込み強盗の疑いがあったいわく付きの男だった。シリーズ3作目で最終巻は長六殺しは誰が何故、というところから始まるミステリーで真相に至るまで二転三転する展開が最後まで引きつける。それに数行の会話のやりとりから映像が喚起されるなど、藤沢さんの小説手法の上手さを改めて実感しました。2021/12/01