内容説明
奇蹟の船はたったひとりで戦い誇り高く死んだ。われわれが平和と繁栄のうちに葬り去ったもの。弥勒丸は日本人の良心そのものだった。老人は五十年余の沈黙を破り、悲劇の真相を語り始めた。極限の愛と死を描く巨編、感動の結末へ。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
里季
55
本を読んで泣いたのは久しぶりのことだ。私の頭の中はリムスキー・コルサコフの「シェエラザード」のメロディが流れている。そして、サンフランシスコ航路の貴婦人弥勒丸がその英姿と美貌のまま沈みゆくのが目に浮かぶ。タイタニック号よりも多くの犠牲者を出したこの事件は、「阿波丸」という名で実存したのだという。何という悲劇か。その弥勒丸を引き上げようという計画に巻き込まれるように加担する軽部と日比野、律子。この事件を浅田氏は実にうまくロマンティックな物語に書いている。多くの人に愛された弥勒丸の最後は涙なしでは読めない。2014/03/02
ちゃんみー
47
ありありと映像が浮かび上がり音楽が響き渡る。まるで自分が乗船者の一員であるかのような錯覚に落ちいってしまった。2015/02/17
とも
46
★★★★★後半は、怒涛のようなスピード感とともに、すべての謎も解明されながら集結していく。現実にあった「阿波丸事件」という実在の事件を題材に書かれたものではあるが、それを浅田の目を通すとこのように華やかで人間味に煽れ、物悲しい作品に生まれ変わる。内容は、主人公の弥勒丸(船)とこれに関わった当時の人々と、沈没船引き上げを画策する現在人と2つの時代を往き来しながら進んでいくのであるが、圧倒的筆致とリムスキーコルサコフの同名作品の音が耳に鳴り響きながら引き込まれていく事間違いなし。2015/10/24
林 一歩
23
先の戦争を舞台に名も無い人々を主人公とした作品を沢山書いて欲しいと願う。忘れてはいけない事があるから。2013/04/06
shiozy
22
下巻の最後は圧巻である。弥勒丸の館内に交響曲「シェエラザード」が流れ、乗組員たちの「よォそろォー」が響き渡る。映画にしたいような場面である。だがしかし、弥勒丸は米潜水艦に包囲され撃沈されてしまうのだ。巻の冒頭から登場する謎の中国人の正体が、まさかの彼であったとは。ミステリー風味も加わって、浅田次郎ならではの壮大な物語である。読み終わって肩の力が抜けたshiozyである。2015/01/12