内容説明
『オヨヨ島の冒険』に始まる笑いと諷刺の作品群、『冬の神話』に刻まれる小林信彦の原点、多彩な作品は著者の鋭い批評精神に支えられ、独得の世界を構築する。敗戦直後の日常を、東京下町に生れ育った中学生の“眼”をとおし捉えた「八月の視野」、戦前の下町の風情を彷佛させる遊び人・清さんを主人公に描く「みずすましの街」、ほかに表題作及び「家の旗」。著者自選。傑作中篇小説四篇。
著者等紹介
小林信彦[コバヤシノブヒコ]
1932・12・12~。小説家。東京生まれ。早大文学部文学科卒。1955年「近代文学」3月号に「白い歯車」を掲載。58年江戸川乱歩に推され中原弓彦の筆名で書評などを書き、「ヒッチコック・マガジン」編集長となる。64年『虚栄の市』、65年『汚れた土地』刊。66年『冬の神話』刊、この時より筆名が本名の小林信彦になる。69年児童向け小説依頼で『オヨヨ島の冒険』刊。73年、『日本の喜劇人』により芸術選奨新人賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ワッピー
29
小林信彦自選の作品集。親類にあたる横浜のドイツ人ヘルム氏の戦後の興亡とその不動産ブローカーぶりを描く「丘の一族」、和菓子屋老舗の暖簾を買い取ってくれた恩人の息子の結婚式に出向く「家の旗」、闇物資を運んだ学生時代とほろ苦い思い出「八月の視野」、下町の遊び人清治との交流を描いた「みずすましの街」を収録。いずれも戦中から戦後にかけての下町の雰囲気を湛えた名編。かつてあったリアルな生活と感情が生々しく伝わってきます。これまで知らなかった小林信彦のルーツが見えてきたところで、そろそろ「夢の砦」に進もうかと勘案中。2019/12/28
hirayama46
3
はじめての小林信彦。オヨヨ島のシリーズで有名な方なのでエンターテイン寄りのイメージがあったのですが、本書では私小説的な色彩の濃い作品を収録しています。1932年生まれなので、敗戦後の混乱した情勢を描いたものや、幼少期の記憶を反映したであろう戦前の光景も描かれていますが、いずれもストーリーテリングにも一味あって、物語性もあり、読んでいて楽しいものでした。もっと直球のエンターテイン小説も読んでみたいですね。2021/12/05
paluko
2
p.226「確実なのは、そこに、彼を取り囲む環境とは対照的な、底抜けに明るい世界が存在することであった。ハーディー・バラックスから出てくる、いつもチューインガムを嚙んでいる白い兵隊たちの持つ楽天的な雰囲気に直結するものがそこには確かにあった。(略)ベニイ・グッドマンの暖かい旋律も明るい笑声も、自分にはなんの関係もなかったのだと彼は自覚した。魔法は、もう、効かなくなった。」主人公の少年がラジオを聴き、停電で音楽が止まったところ。「みずすまし」の清さんは『唐獅子株式会社』ほかに登場する学然和尚のモデルでは?2020/01/04
アメヲトコ
2
著者自選の中篇小説集。私の中ではエンタメとかコラムのイメージの著者でしたが、こういう作品もあったんですね。しかもなかなかの佳作揃い。表題作の横浜、「家の旗」の京都、「八月の視野」と「みずすましの街」の東京と、都市の描き方が印象的でした。2016/08/23
笠井康平
1
戦後とか米軍とかそっちのけで夢中で読んだ。人々の魅力。2011/07/03