内容説明
マンションの十四階から語り手は、開発によって次第に変化する遠景の中にこんもりとした丘を見つけ、それが地名の由来となった馬加氏の首塚と知る。以来テーマはひたすら首塚の探索となり、新田義貞の首塚から、さらに『太平記』『平家物語』のすさまじい首級合戦へとアミダクジ式につながり、時空を越えて展開する。第四十回芸術選奨文部大臣賞受賞作。
目次
ピラミッドトーク
黄色い箱
変化する風景
『瀧口入道』異聞
『平家』の首
分身
首塚の上のアドバルーン
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
YO)))
30
<首>というタグを軸に紡がれる,ハイパーテキスト小説.コンテキストやロジックと呼べる強度よりはもう少し緩いノリで,行きつ戻りつリンクが繋がっていく,その,繋がること自体の快楽.Web時代にこそ読まれるべき作品かもしれない.2016/02/18
かわうそ
26
思考の赴くままに読者を引きずり回した上で「これ何の話やねん」「お前わかってやってるやろ」とツッコまれるのを待つ著者の姿が目に浮かぶ。面白かったです。2016/01/25
ハチアカデミー
26
再読、ではあるのだが、以前は全然読めていなかったことを痛感。明生のエッセンスのつまった連作短編集。他人の頭の中ほど面白いものない。幕張のマンションから見える首塚について、『平家物語』『太平記』を中心に書籍から得た知識を繋ぎ合わせ、その来歴を探る。とはいえそれは学術的なものではなく、作家の頭の中での連想ゲームに過ぎない。だからこそ、目についた首塚から、花田清輝やボルヘスまで、自由に結びつけられる文章の数々が面白い。が、本書の白眉は冒頭2編、「ピラミッド・トーク」と「黄色い箱」である。2013/04/04
ちぇけら
22
馬加康胤の首塚を眺める14階、思考と時間は歪み『太平記』や『平家物語』、あげく『仮名手本忠臣蔵』の引用を多量に巻き込んで物語はずんずん進んでゆく。すべての物事が偶然をはらみながら少しずつ絡みあって、緩く関連しあっている無機質な海に、読者はいやおうなしに飲み込まれていく。話は連続しているのに1年が経過していたり、同じ相手に話しているのに話題が突然変わったり、生きている実感がないままマットな時間だけがすぎていく楽しさにつつまれる。小春の空にぷかぷかと浮くアドバルーンになったみたいだ。2019/03/26
長谷川透
19
発展の渦中にある現在を発展の象徴とも言うべき高層マンションのベランダから眺めると、視線の先には地名の由来となった首塚があることを主人公は知る。数百年も前の屍が眠る地中と、現代の高層マンションからの高みとの時間的二項と空間的二項の共鳴が、物語の中で始終響く。首塚を巡る時間的な探索は『太平記』『平家物語』『瀧口入道』『平家』『徒然草』『仮名手本忠臣蔵』と古典的名著を経て、マンションから眺める首塚へと戻ってくる。視線の動きは徹底して小さく時間的な動きはダイナミックだ。夢心地のような擬似的時空旅行を体験した。2012/12/23