内容説明
「何と云われようと、知らないことは知らないんだから、僕はそう云うしかないんですよ」とあくまで居直る惣吉。突然に出現した女の存在に崩解し出した作家夫婦の危機。反動化し戦争に向う因難な時代に、共に立ち向うはずの折江の夫が、逆に女で家を出ようとする。取り乱し、媚び、たじろぐ女としての自己の崩れを見据る作家佐多稲子の文学世界の最高の達成点。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
moyin
8
田村俊子関係を追っていると自然に手に取る一冊。浮気の夫との関係が直ったように見える一方、主人公の心の傷はそのまま残っているのだ。時勢の描写は生き生きしている。その時点で、民衆は戦争の波に呑まれたのではなく、彼ら自身は波になったのだ。2022/11/30
みずいろ
2
実体験に基づくというだけあって心理描写がとても緻密。落ち着かない世の中と、暗く墜ちていく家庭。諦めに満ちたそれらの結実が重い。2011/09/20
