内容説明
井伏鱒二の色紙にある“捷平は愿人(げんじん)なり”のように、つつしみ深く、含羞のある、飄々たるユーモアに遊ぶ精神。掘り返された土に陽があたる田園や、父母や妻子の風景を、いわば“魂の故郷”を、都市の文明に決して汚されぬ眼で、こよなく暖かく描き続けた、作家・木山捷平の自由なる詩心。正に“人生を短篇で読む”絶好の初・中期珠玉の飄々短篇集。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
厩戸皇子そっくりおじさん・寺
102
これまた素晴らしい短編集。文意をきちんと確認しないような軽い気持ちで読み始めても、言葉がスルスルと入って来る。気付くと作品に夢中になっている。これまたみんなにお薦めしたい。木山捷平の人生を追体験できる構成になっている。そんなおじさんの人生など追体験したくないという方もおられようが(笑)、この15篇の短編集には、つまらない小説がひとつも無い。表題作である『氏神さま』など、太平洋戦争真っ只中の昭和18年によくぞ発表したと思える笑いがある(静かな反戦の要素もある)。この本に今からでも芥川賞をあげてやって欲しい。2019/08/27
かんやん
28
デビュー作から遺稿まで、私小説風だから作家の生涯が辿れる。『子におくる手紙』では、作家を目指して東京へ出奔した息子を叱る田舎の厳しい父の言葉の裏にある愛情。『春雨』では、そんな父も若かりし頃、東京へ出奔していた、と。残された漢詩に、有名な漢詩人の添削があり、「君詩才あり、他日文壇に名を馳す」と。この朱筆を読んだときの若き父の気持ちを息子が推し量ることになる。そして、あの荷風先生と父が同門であることを知るのである。語り手が漢詩の先生の葬式で荷風とすれ違うシーンが実に美しい。2022/05/30
軍縮地球市民shinshin
11
処女作から遺稿まで短編を集成した作品。幼少期を扱った作品が良い。木山は満洲帝国の首都新京に滞在中、1945.8.12に召集され、人間爆弾としての訓練を受けたが、8.15の敗戦により召集解除、ソ連兵や満州人の巡査によるシベリア送りを掻い潜って復員。文章にすれば凄い体験だが、木山の私小説はどことなくユーモアが漂っている。日本軍よりもソ連軍の方が人道的との記述があるが、それはソ連兵の実態が分かっていなかった昭和30年代だからだろうか。木山の私小説は秋の夜長に読みたいが、真夏の夜でも良い。読むと落ち着く。2017/07/07
おおた
11
時代的に逆だが辻征夫のおっとり加減に似た暖かさ。わたしにとって木山捷平2冊目となり、作風や私小説感がだいぶ見えてきた。前回読んだ『白兎・苦いお茶・無門庵』に比べると若い時代の作品が多く、当時の人ならではの乱暴な倫理観や子供への八つ当たりなどが鮮烈だった。怒っても無駄とは知りながら自分の感情を止められない作者自身の後悔が滲み、わたし自身の小ささをも省みる。「初恋」の甘酸っぱさ、「氏神さま」の人を思いやる気持ち、「尋三の春」の少年小説のような描写力に加え、場所は違えど同じ田舎育ちとして共感する所多い。2015/01/02
ステビア
7
素朴な味わい。2018/10/26