内容説明
初期「美少女」「幼児狩り」、芥川賞受賞作「蟹」から、話題の『みいら採り猟奇譚』まで、著者の誠実な文学的展開の中で、中期と呼ぶべき中・短篇群。特に世評高い名篇「骨の肉」ほか、女流文学賞受賞の「最後の時」、更に「砂の檻」ほか4篇収録。男と女の関係、特に子供のいない女・妻と男・夫の関係を描き、抉り出されてくる生の深奥の類例のない明晰な衝撃。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
tomo*tin
22
この密度の濃さはなんだろう。過度な装飾の無い端正な言葉たちは不思議な力を持っている。私は一人きりの観客となりスクリーンを凝視する。鮮やかな色合いと瑞々しい感触に目を奪われる。次第に深まりゆく愛憎と執着に心抉られ、いつしか私はスクリーンの中に入り込み、男女の背後で一部始終を見る羽目になる。感情の激化は無い。けれど、ゆるゆると何かが崩れ常軌を逸してゆくのが空気で分かる。世界の色が変わってゆくのだ。あなたでなければ駄目だ、という幻想。愛も憎しみも執着も、純粋であればあるほど病なのだと思う。なんだか、消耗した。2009/06/25
R子
9
短編7本を収録。日常の隙を突いて不穏な影が忍び寄り、不安を掻き立てる。何か取り返しのつかないことをしたのではないかという焦燥と狼狽が、どの作品にも感じられた。「魔術師」の、主人公が両掌を見るシーンは怖すぎ。「胸さわぎ」の、嫌な予感は誰もが経験済なはず。自分の死を見つめる「最後の時」は、意外にも爽やかな読後感だった。河野さんの他作品も読んでみたい。2013/09/10
ムチコ
3
整った清潔な文章で、じくじくとこわい。男女のきしみや行き違い(現代から見ると非常に家父長的な)の描写もさることながら、要所要所の時空の歪ませ方がこわい。知らない人の濡れた手で素肌を撫で上げられるような。「最後の時」におけるきっぱりした準備の様子には三島由紀夫「憂国」を連想した。2019/10/19
kaizen@名古屋de朝活読書会
3
NHK TV Jブンガクの2009年6月に「骨の肉」の紹介がありました。 牡蠣の殻の描写がとても細かいのが印象的でした。 貝柱の食べ残しをどうやって食べるかという。 登場人物の人間模様を、食を通じて描いている。 Bone Meatという名前でラワーが英訳しているらしい。 2009/07/07
龍國竣/リュウゴク
1
「最後の時」が素晴らしい。突然、得体の知れない存在と主人公の女との対話で始まる。女は死を宣告され、それに対して猶予を願う。場面が変わると、女とその夫の日常が描かれる。女は夫や将来の再婚相手に向けて遺書を書く。カフカにも喩えられる秀作だ。2014/09/03