内容説明
闇なのに、なぜ明るいのか。病んでいるのに、なぜ笑いさんざめくのか。危機へと向かっているのに、なぜ喜びいさむのか…。この国のあやかしの景色にひそむ病理を、たぐい稀な視力と根源の言葉で解析し、今日的閉塞のわけを突きとめてみせた、いま最も美しく挑発的な一冊。朝日新聞連載時から、ラディカルさゆえに大きな議論を巻きおこし、読者の圧倒的支持と共感をかちえた本編作品群に加え、文庫のために書き下ろした瞠目の問題作「虹を見てから」を併録。
目次
1 夏から秋への記憶(骨の鳴く音;記憶を見る ほか)
2 秋から冬への惑い(言葉と生成;詩の流星 ほか)
3 冬から春への疼き(サーカス;悪霊の顔 ほか)
4 春から夏への眩暈(魔法の塩;再びテーマについて ほか):虹を見てから―『眼の探索』の補遺として
著者等紹介
辺見庸[ヘンミヨウ]
作家。1944年、宮城県生まれ。早稲田大学文学部卒。70年、共同通信社入社。北京特派員、ハノイ支局長、編集委員などを経て96年、退社。この間、78年、中国報道で日本新聞協会賞、91年、『自動起床装置』で芥川賞、94年、『もの食う人びと』で講談社ノンフィクション賞受賞。ほかの著書に『赤い橋の下のぬるい水』『反逆する風景』『ゆで卵』『独航記』などがある
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
1 ~ 1件/全1件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
おさむ
29
20年も前の辺見さんのエッセイというか随筆集。ちょうど日米安保ガイドラインが改訂されて、日本がきな臭くなっていったころ。奇妙なまでに安部政権下のいまの日本社会と重なります。善と悪、狂気と正気、生と死…。辺見さんの格調高い文章は、こうした対立する概念の境界線を揺らがせ、消していきます。元新聞記者で、これだけ純文学的な文章をかける人をわたしは知りません。昔は井上靖とかがいたんだけどなあ。2018/09/29
テン
6
言葉をたくさんもってる人に憧れることで生きてこられた気がする。言葉は世界を区切っていく。私のような凡眼には何もないようにみえる瞬間を言葉は美しくしたり哀しくしたりする。たくさんの言葉を所有することができれば大切な人が思い悩むこころのスキマにハマる言葉をとっさに選んであげられるかもしれない。辺見庸は言葉の傭兵のように世界にいるみたい。社会に迷彩し最前線に立つ雰囲気を感じる。エッセイのようなカタカナの優しいフォロワーのいる世界ではなく、もっと散文てきで言葉そのものに支持者をもたない孤独な詩のように感じる。2024/01/29
mope
3
再読。辺見さんがポルポトと握手した時の掌の感触について書いた文章を読みたくなって、読んでみたけどこれじゃなかった…。 辺見さんの文章は政治の話を身体性とか情念みたいなもので語るところ、そしてそれをあくまで情念として扱うところ(理念や論理であるふりをしないところ)が好きなのだけれど、今現在の時勢の事もあって読んでいて酷く疲れました…。 私は辺見さんの作品は政治の話でもなく、小説でもなく、日常の事をざらりと描いたような文章が好きみたいです。2017/04/30
うりぼう
3
辺見庸って、どこで切ったらいいか判らない。眼のつけどころが違う。2001/11/12
メルコ
2
20世紀末の頃に新聞連載されたもの。当時話題になっていた新ガイドライン、死刑制度の是非について多く書かれている。書き下ろされた「虹を見てから」の内容に驚く。著者の他の書物も読んでみたくなった。2017/01/26