感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
るい
47
母の故郷は長野の山奥で、わたしは全く好きではなかった、今でも苦手だ。それでもこの厳しくも美しい自然と共存し、戦ってきたことには敬意しかない。山を越える冬の厳しさは戦慄を覚えた、当時のインタビューに答える言葉の方言が耳に心地良く響く。まだ子どもと呼べる人たちが一人一人踏ん張り助け合い製糸工場で戦う。櫛の歯が欠けるように一人、また一人といなくなる哀しさ。壮絶で寒くて哀しくて、読み終えるまでにかなり時間を要したしどっと疲れたけれど、読めてよかった。2020/04/12
TATA
33
実家から渡英前に送ってもらった一冊。昭和54年2月に7版と40年近く前。表紙は映画の主役だった大竹しのぶさん、さすがに若い!女工哀史とのイメージが定着してるけど史実を追うと一種の社会運動だったのだなと。決して過酷な労働環境というだけではなく、それで立派に家計を立て直すものもあり、労働争議のはしりもありと非常に興味深く読めた。しかし、後世の人たちに給金の明細を開陳されて、「この人は優秀ではなかったようだ」とか言われても。大きなお世話だよな(笑)。2018/06/08
ゲオルギオ・ハーン
30
日本を近代化していくためには海外から設備を購入しないといけないし、お雇い外国人の給与なども外貨で払わなければならない。外貨を獲得するには輸出を増やさなければならない。明治の日本で輸出品の中心になったのは生糸だが、その生産は価格変動に悩まされる工場経営の苦労と多くの女工たちが心血を注いだからこそ実現できたものだった。数百人の元女工たちにインタビューをして当時の過酷な労働環境、近代化を支えた産業の陰を生々しく伝えてくれる本書はとても貴重なものだと思いました。2021/05/04
カブトムシ
25
原作もよく読まれ、昭和54年(1979年)山本薩夫監督で、映画化。日本の近代化政策に押しつぶされていった無数の娘たちの青春を描き、近代日本の素顔を浮き彫りにする文芸ノンフィクションの傑作。主な出演者、大竹しのぶ、原田美枝子、友里千賀子。私が生まれた地域では、私が中学生か高校生の頃まで、まだ養蚕(蚕を飼うこと)を多くの家がやっていた。戦前の信州の岡谷や諏訪は、製糸業の中心だった。他県からも峠を越えて、工女さんが働きに来た。戦時中に都会からも多くの企業が疎開して来て、戦後の精密機械工業の発展につながっていく。
にゃおんある
23
諏訪の女工は恐るべし。生糸を作れば世界一だった。実は生糸だけではなく、時計を作らせても世界一。スイスのマイスターの足元にも及ばない、いや、マイスターが安賃金の女工の足元にも及ばなかったのだ。それは指先の小ささにあるのかもしれないし、仙人なみの達人しか到達し得ない境地にあるのかもしれない。ともあれ精密で均一、複雑な工程を極めて短時間にしかも低価格でやってのけたのだ。その完成度と正確性は軒並みで、実に多くのスイスの工房が姿を消した。クロノメーターの検定品よりも正確だったからだ。2022/10/04