内容説明
明治の終り、故郷を追われ北九州若松港に流れてきた男と女。二人は最下層の荷役労働者となり、度胸と義侠心で荒くれ男を束ね、波止場の暴力と闘う。男は玉井金五郎、女はマン。男の胸の彫青は昇り龍に菊の花。港湾労働の近代化を背景に展開する波乱万丈の物語。著者は本名玉井勝則、金五郎・マンの長男、実名で登場する。
著者等紹介
火野葦平[ヒノアシヘイ]
1907‐60年。作家。福岡県若松市生まれ。早大文学部英文科中退。36年若松港沖仲士労働組合を結成、港湾労働者の闘争を指導。逮捕転向を経て、文学にもどる。38年「糞尿譚」で芥川賞受賞。徐州作戦に従軍し、「麦と兵隊」を発表。戦後に戦争協力者として追放を受け、50年に解除され、健筆をふるう(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
mike
75
驚いた。すごく面白い❗地元の作家なのに何となく敬遠してた火野葦平。時は明治後期。愛媛の金五郎と広島のマン。二人はいつか日本を出てやろうと野望を胸に故郷の村を後にし、門司で出会う。そこで最下層の沖仲仕となった二人は夫婦となり、若松に根を下ろす。しかし、そこは一帯を牛耳る吉田の傘下にあった。男が惚れる金五郎!義理人情に熱く闊達。女も惚れないわけがない。マンも良い。情け深い働き者だが、鉄火肌。時代を感じさせない軽妙な文章と読み手を飽きさせない構成にページを捲る手は止まらず、下巻へと気持ちは速まるのだ💨2023/05/26
姉勤
36
かつて石炭が、文明のエネルギーの主役だった時代。皮肉なことにその石炭は、人力で分配されていた。分配という荷下ろしは過酷な男の仕事であり、暴力と侠気がものを言う世界であった明治の後半。一人の男と、一人の女が、大望を胸に流れ着いた北九州の港町。現代日本とかけ離れた価値観を受け入れられるか、呑み込めるかで評価が分かれるところだろう。個人的にはとても面白い。命がけの刹那の土壇場を好むなら、我欲第一の生き方の見苦しさを嫌うなら、歴史を時代と擦り合わせて考えることが愉しいなら、オススメします。2021/03/25
fseigojp
24
映画原作 戦後の作品だったとは知らなかった 石原裕次郎主演 ほぼ実話という著者の父の一代記2015/10/14
Galilei
9
地元の親友に連れられ「ごんぞう小屋」跡へ。洞海湾には、玉井金五郎と妻まんが苦労を積み上げた若松と戸畑の地を結ぶ若戸大橋が広い青空を一線切っていた。すぐ傍の古びたお好み焼き屋や行くと、昔は前に遊郭が並び、ごんぞう達は此の店で腹ごしらえして突撃したと。▽遠賀川に沿って筑豊へ、小さな百姓家が点在し田畑は何かしら活気がないような。▽製鉄、電機の大企業は今も聳えてるが、勇壮な本編の名残りが微かに漂うのは、恰も祭りのあとのよう。そして金五郎の孫の中村哲医師はその遺伝子を受け継いだ活躍で、祖父の風貌すら漂うよう。
くるた
5
以前NHKの番組で特集を見て以来、気になっていた作家火野葦平。『糞尿譚』しか読んだことなかったのですが、こちらの自伝小説を図書館で発見。期待以上に面白い!文章が読みやすいし、なにしろ著者の父である玉井金五郎が魅力的すぎる。著者の生い立ちをネットでざっくり調べた時は、ヤクザではないものの、そっち系の気質が多分にある家で育ったのかな?位に思っていましたが、ある意味逆でした。父親は、学はないが知性がある、頑健で面倒見がよくて驕らないって、本当にこんなに”いい男“だったのかいと疑いたくなるほど。下巻すぐ読も。2019/12/01