出版社内容情報
長野県臼田町――予防医学や巡回診療に数々の業績を残し,国際農村医学会の主催地ともなった佐久病院がそこにある.戦前の学生運動の挫折後,初心を忘れず農村に入り,敗戦後院長となった著者が,戦後民主主義を身をもって実践しつつ築き上げたこの病院の苦闘の歴史から,医療とは何か,人間の生き方の問題等多くの示唆が得られよう.
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
おさむ
42
芥川賞作家で医師の南木佳士さんが3月まで勤務していた佐久総合病院。その農村医療体制をゼロからつくりあげた若月俊一さんの26年に及ぶ記録。戦時中の東大病院時代に治安維持法違反で逮捕された左派のインテリ医師が、保守的な風土の山村でアカと蔑まれながらも苦労を重ね、仲間と理想の医療を追求していく。そのひたむきさと粘り腰には頭が下がります。今では常識となった定期検診や山村への出張診療など予防医療に先駆的に取り組んできた。長野が全国でも頭抜けて医療費の少ない県なのはこうした背景があるんですね。1971年初版。2017/04/05
井の中の蛙
6
日本史で習ったような出来事がいくつも出てきた。日本の農村医療の先がけの様子を知ることができた。2024/04/17
スズツキ
5
読者が選ぶ岩波新書の投票で上位に入った71年刊行の本。著者は治安維持法での逮捕経験がある。序盤は退屈だが、実学に入る中盤が面白い。農村で以前からある病気の解明やその対処に奔走する様子はノンフィクションとして上質。ただ、それ以外の場面での農民を「啓蒙」してやろうとする姿勢はどうにも違和感。このようなインテリゲンツィア(丸山眞男がいう亜インテリ)はロシアでは自滅し、日本でも衰退した。その一端を担ったであろう著者の病院がその後どのような運命を辿ったのか興味がある。2016/02/03
とくま
4
×P6.2020/04/08
もりっち
3
戦後、長野の農村部に密着して、農村医学の拡充に努めた佐久病院(現在の佐久総合病院)の名誉院長先生の ・農民のニーズありきである ・農民の命を守る、という前提のもとに働く ・健康とは本来農民自らの手で形成するものだ という基本かつ難しい点を徹底し、農民の側に立って行われないとこれらは成しえないということが盛んに書かれています。今でいうプライマリ・ヘルス・ケアの姿勢にかなり近いものもあるのではないでしょうか。感銘を受ける一冊でした。2017/03/26