出版社内容情報
都会からもどった教授夫妻が,静かな田舎屋敷の暮らしに呼びおこす波紋―息苦しい現実のなかで,ひたすら生きて行こうとする主人公たちの姿は,時代の閉塞状況に悩む人々の心に強く訴えかけてきた.38年ぶりの新訳.
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
のっち♬
135
尊大で身勝手な退職教授と無為徒食な美貌の妻の移住ですっかり「軌道をはずれて」しまう田舎の暮らし。先行き不透明な社会情勢における人間の苦悩が切実に吐露された作品で、自らの感情の鈍りや変人性を分析する医者のシニズムや森林伐採への怒りなどは著者の影を感じる。何気ない会話で人物像や人間関係を浮き上がらせる手腕も卓越しており、ソーニャの真面目さの中に潜む無神経さ、エレーナの貞淑さに潜む哀しみなどは話に奥行きを添えている。「生きのび、運命の試練に耐えて」「働き続けましょう」—不幸への忍耐を慰める最後の台詞も印象深い。2021/08/01
syaori
76
『ワーニャおじさん』は、妹の夫の教授を崇拝し領地を経営し送金して彼に献身してきたものの、確たる名声も業績もなく退職した彼に失望し、その間の「人生の最良の時を」「失ってしまった」と叫ぶ人物。ほかにも理想と俗な現実の生活との懸隔に倦む医師アーストロフや自身の恋が「本物じゃなく、作り物」だったことに結婚後気付いたと語る教授の後妻エレーナなど、劇中の人々は皆人生の浪費感・喪失感に喘いでいて、しかしそれでもそれに耐えながら長い日々を生きてゆく彼らの姿に、深い諦念としかしそれに屈せぬしなやかな人の強さを感じました。2023/09/08
ちゅんさん
52
今話題の、岩波文庫の方が良さそうなのでこちらを読んでみた。しかし感想をどう書いていいかわからない。悲劇でもないし喜劇でもない、チェーホフは“田園生活劇”と言ってるらしいが、うーん。解説が詳しくて助けになった。これはもう一度読んでみないと感想が書けそうにない。2022/03/31
みつ
42
何度も読んだ戯曲台本の再読。「四幕の田園生活劇」と称する本作は、前作の『かもめ』以上に短い期間を扱い、出来事の起伏もより少ない。退職した老教授と若い妻エレーナ、彼女に想いを寄せる47歳のワーニャと約10歳若い医師アーストロフ、ワーニャの姪で医師を愛するソーニャが主な登場人物。終わりにむけて何人かは田園を去っていく。理想を心に掲げながら生活に疲れる医師(「わたしの行く手に灯火はないのです」(p55)、「残りの人生をあらたに生き直すことは出来ないだろうか」(p106)と嘆くおじにかけるソーニャの言葉が美しい。2024/03/31
Kouro-hou
28
映画「ドライブ・マイ・カー」観たらこっちも読みたくなり、と岩波版は友人のオススメ。しかし絶版ナリw チェーホフでも切れてしまうのかー。皆が皆、自分が一番不幸と思っており、喜劇に分類されてはいるけれど悲劇じゃないだけだよね、というシュールさが漂う。それでも「櫻の園」までは諦めていないというか。ソーニャは可憐だけど無神経なのは学がないから、という解説には納得。たしかにインテリの医者アーストロフのアウトオブ眼中でもしょうがないと思えますが、ソーニャ本人は容姿のせいにしてるのは微妙に救いがないのか救いがあるのか。2021/11/07