出版社内容情報
19世紀フランス文壇の鬼才リラダン(1838‐1889)の,人間性に対する深き洞察と峻厳なる批判と,その芸術境から生れ出る豪華典麗な夢想とが,渾然として融合し,絢爛たる唐草模様の絵巻物となったのがこの作である.読者はここに,マラルメによって「大ヴィリエ」と呼ばれた作者の高貴なる魂が,颯爽として天翔けるのを仰望しうるであろう.
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
evifrei
18
エワルド卿が望んだ通り、エディソン氏は魂をもたない理想の姿をした人造人間・アダリーを完成させる。エワルド卿の元恋人・アリシヤ嬢の姿を模した完璧な容姿を持つアンドロイドとしてアダリーが顕現するのはかなり後半。未完成のうちは鉄甲冑の乙女として登場するのだが、エワルド卿に自分を生きさせて欲しいと懇願するアダリーの姿は一途で切ない。この鉄甲冑の乙女のうちからアダリーには魂が宿っている様な印象を受けたのだが、人造人間の持つ魂はこの作品の一つのテーマだろう。ラストも一見呆気ないようだが、いつまでも余韻が残る名作。2020/06/14
twinsun
6
アンドロイドが燃え尽きてもエジソンはたじろぐことはない。人間は何があっても次に進んでいける。好奇心が目指すのは好奇心そのものの充足のようだ。未来が地球が人間の感情がこうした好奇心に弄ばれる現状をリラダンは憂えたのか。皮肉な好奇心で未来を見つめていただけなのか。今なお我々は煙に巻かれているようだ。 2023/05/29
東京湾
6
「我々の神々や我々の希望は、もはや科学的にしか考えられないことになりました以上、何が故に、我々の恋愛も等しく科学的になり得ないのでありましょうか?」かくて幻想は実体として生まれ落ち、夢は現実の世界で歌い踊る。科学技術が世界を席巻するなかで問われる人間存在。産業革命を発端に激変した欧州社会でこの物語が描かれた意味は大きく、技術の進歩の前で人間はどうあるべきか再考を迫られる現代においても、一読に値する作品だろう。あらゆるものを自らの手で造り替えようとした罪と罰。それでも人はいつだって、夢を見ずにはいられない。2020/03/21
ぜっとん
5
人間の「現実」における生々しさや愚かしさを完全に顛倒させて作り出した理想。誕生と滅びは神話のように美しく、詩的で思索的な台詞の数々が見事に調和して物語世界を形作る。ロード・エワルドは救われてしまったのだろう。ソワナに関する物語に漂うまがまがしさも、アダリーの純然たる美の好対照であり、世界のカオスを浮き彫りにする。痛くて痛くて、美しい。これでよかったんだ。2013/11/29
ひでお
4
19世紀の作品なので、科学的な誤謬が多々あることはさておくとしても、超自然的現象を出してしまうと、とたんに物語が陳腐になるような気がします。また、人造人間を作るに至った理由が、男性から見た一方的な理想の女性を作るためというのが、しっくりこないところ。一方で本書の大部分は人造人間がいかに作られているかの記述に割かれていますが、本質はキリスト教社会において神に挑戦することの意味を問うことかと思います。そして、恋愛対象の異性というのは自分の観念が作り出すもの、というのはなるほどその通りかもしれないと思いました。2021/09/14