出版社内容情報
世間に名を知られた中年の作家の,女弟子への恋情―花袋(1871-1930)は,主人公の内面を赤裸々に暴き立て,作者自身の懺悔録として文壇に大きな衝撃を与えた.日露戦争を舞台とした小品「一兵卒」を併収.(解説=相馬庸郎)
内容説明
家庭があり知識も分別もある、世間に名を知られた中年の作家の女弟子への恋情―花袋は、主人公の内面を赤裸々に暴き立て、作者自身の懺悔録として文壇に大きな衝撃を与えた、日本自然主義文学の代表作。日露戦争の最中ひっそりと死んでゆく哀れな一兵卒を描いて読む者の胸をうつ小品「一兵卒」を併収。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
新地学@児童書病発動中
120
自然主義文学として名高い「蒲団」と、一兵士の死を淡々と描く「一兵卒」を収録。「蒲団」は作家である主人公の悶々とした内面を描いている。彼は池波正太郎風に言えば、弟子の女性にけしからぬ思いを抱くのだ。そんなに悩むのだったら、女弟子のことはきっぱりとあきらめて、創作に打ち込めば良いのにと思ってしまうが、そんな風にうまくいかないところが世の習いなのだろう。駄作ではなく、人間臭さの漂う優れた一篇。「一兵卒」の方が好みだった。私の祖父も多分こんな風にして戦場で死んだのだと思う。無数の無名の死者の悲しみが伝わってきた。2016/10/28
YM
80
主人公は34歳、妻子持ちの作家。そこに先生!と慕ってくる若くてかわいいらしい女弟子がやってくる。先生は久々にキュンとする。自分のものにしたいけどできないし、他の誰かに取られるのも絶対いや!でも、やっぱり女弟子に彼氏ができちゃう…。先生はあの手この手で妨害するんだけど、情けなくて気持ち悪くておもしろい!んだけど、だんだん先生の気持ちが同い年の自分にオーバーラップしてめちゃ苦しい!先生、僕わかるよ!もしかしたら人生最後のキュンだったかもしれんもんね。たぶん僕もそうしたよ!蒲団に顔はうずめときましょ。2015/01/07
康功
66
芳子、田中の恋に歳の離れた中年の小説家の師、時雄のプラトニックな愛。ストーリー展開はシンプルだが、主人公の時雄の心境は、現代にも十分通じるような叶わぬ儚い夢、、、 一方、言文一致体、自然主義の田山花袋は、ある意味大変重要な役割を果たした重要人物の中の一人のようだ。文明開化の時の海外文学の翻訳が、近代日本文学の文体に変化をもたらしたのだろう。2017/01/05
里愛乍
54
正直に率直に述べさせていただければ「男ってのは本当にどうしようもないな!」というのが、数頁読んだ直後からの感想です。幸せで安定した生活に倦きて満足できぬなどと、しかも淋しいとか、あげく若い美しい女と新しい恋をしたいとか、女性には容色というものが是非必要と言いきっちゃうとことかね。美しい愛弟子に恋人ができるともうあれだ、滑稽以外の何者でもない。ただ、まったくイヤな気持ちには微塵にもなりませんでした。ここまで赤裸々に頭の中を晒してくださるといっそ清々しくも可笑しみすら感じてしまう。非常に面白かったです!2018/06/12
藤森かつき(Katsuki Fujimori)
53
田山花袋の誕生日に。「蒲団」ここから私小説が始まったようだ。時雄は終始よこしまで、親身になってアドバイスしている時も、親を説得する時も、愛する女弟子のことを思っての言動ではない。あわよくば、という思いがあるからか余計に、自らの言動で墓穴を掘り続けているように見える。でも、時雄が告白さえしなければ、女弟子にとっては掛け替えのない師であり、弟子の両親にとってみれば立派な監督者であり、妻から見たって良い旦那さまなんだろうからなぁ。「一兵卒」は実際に従軍している花袋ならではのリアルさが胸に迫り、しみじみと切ない。2020/01/22