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三 十

沼 野 充 義

世 界 文 学 の 現 在 と 未 来

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沼野充義さんエッセイ「世界なんて知らないよ、という前に」
沼野充義さんプロフィール
「世界文学の現在と未来」
1.小さな場所から2.越境・亡命・多言語3.騒がしく痛ましい20世紀4.21世紀にむけて想像力を鍛える番外
<現代文芸論>研究室の創設について
じんぶんやバックナンバー

沼野充義さんエッセイ

 私たちは世界をほんとうにはよく知らない。そんなことを言ったら、この「グローバリゼーションの時代になんてバカなことを!」とあきれられてしまうだろうか。

 でも考えてもみてほしい。この世界にいくつの国があって、いくつの言語があるのか、それすらはっきり数えられないわけで、まして「いくつの文学」があるかなんて、誰にもわからない(50、380、それとも2000?)。それなのに、私たちが読めるコトバは基本的にはあいからず日本語だけ。それに、英語が少々できる人がけっこういて、運がよければその他に1つ、2つ。これでどうして世界文学の目くるめく多彩な沃野に足を踏み入れられるだろうか?

 いや、だいじょうぶ。翻訳がある。昔は英独仏語といったメジャーな言語以外をやる人がめったにいなかったのだが、最近は若い人たちが世界の隅々に出かけていて、かなり「珍しい」言語をマスターしている。僕の知人の中には、話者が3人しか現存しないオーストラリアの先住民の言語に精通した人もいれば、グルジアに単身留学してあの難しいグルジア語を習得しただけでなく、美しい奥さんを連れて帰ってきた人もいれば、ラトヴィアに行ったきりそこが気に入って住みついてしまった人もいる。素晴らしい人たちだ。いま世界で流通している本の圧倒的多数はじつは英語のものだという現実はあるけれども、その反面、様々な「マイナー」言語の知識を通じて、世界の見え方が少しずつ変わってきていることも確かだろう。

 あなたの知らない言語で、聞いたこともない作家が書いている、まったく未知の文学。翻訳を通じてであれ、そういうものを読んだとき、感ずるのはどういうことだろうか。なんて違うんだろう、という異質なものに触れたときのしびれるような違和感? それとも、全然違うはずなのになんてよくわかるんだろう、なんて似ているんだろう、という懐かしさ? そのどちらの場合があってもいい。異文化に触れたり、世界文学を読んだりするのは、この「違和感」と「懐かしさ」の間の永遠の往復運動じゃないのか、と僕は思う。

 もちろん、翻訳を通じてでは文学はほんとうには味わえない、という人もいるだろう。それはある程度は正しい。でも完全に正しいわけではない。現代の世界文学とは翻訳を通じて流通することによって、それぞれの受入国で独自の価値を増す文学なのだから。そう言われてもまだ納得できない人は、ぜひいろんな外国語を勉強してください。だから、世界文学の現在と未来に向けて唱えるべきスローガンは二つ。もっと翻訳を読もう! もっと外国語を勉強しよう! 世界なんて知らないよ、と言う前に。

【沼野充義】


PR - 1.<現代文芸論>研究室の創設について

 この春に東京大学文学部に<現代文芸論>という研究室が創設されます。これは欧米を中心としながらも、広く世界の文学を現代的な観点から(日本文学も視野に入れて)扱うための場として構想されたもので、4月から学部課程と大学院(修士・博士)課程が同時にスタートします。従来の文学部にとって伝統的な英文学、ロシア文学といった言語や国別の縦割りを超えて、新しい文学研究のあり方を模索する試みと言えるでしょう。

この課程の特色となるのは、以下のような分野を積極的に扱うことです。

・翻訳論(理論と実践) / 批評理論
・世界文学へのアプローチ / 越境文学論―亡命文学、クレオール、多言語など
・既存の枠にあてはまらない言語文化(ヨーロッパ周辺やラテンアメリカの文学)
・欧米の言語文化をバックグラウンドとした近現代日本文学研究

 いや、今回のブックフェアで選ばれたような本を積極的に読むことが、まさにこの新研究室がしようとしていることそのものだ、と言ってしまったほうがわかりやすいでしょうか。専任教員は柴田元幸教授(翻訳論)と沼野(越境文学論)、それに一年の予定の外国人客員教授としてTed Goossen氏(ヨーク大学、日本文学)が加わるほか、文学部の他研究室からの協力教員として、英文の大橋洋一教授が批評理論を、また国文の安藤宏准教授が日本近代文学を担当します。また野谷文昭氏(ラテンアメリカ文学)、高山宏氏(表象文化論)、若島正氏(幻想文学)、小沼純一氏(文学と音楽)といった充実した非常勤講師陣もそろえています。

【沼野充義】

ホームページ: http://www.l.u-tokyo.ac.jp/~seikin/hossoku.html
問い合わせ先: seikin@l.u-tokyo.ac.jp


PR - 2.新刊(翻訳)案内

リヴァイアサン号殺人事件 リヴァイアサン号殺人事件

ボリス・アクーニン【著】、沼野恭子【訳】
岩波書店(2007-02-27出版)
ISBN:9784000246347
定価:1,680円(本体1,600円)
アキレス将軍暗殺事件 アキレス将軍暗殺事件

ボリス・アクーニン【著】、沼野恭子・毛利公美【訳】
岩波書店(2007-02-27出版)
ISBN:9784000246354
定価:1,785円(本体1,700円)
世界30ヶ国で大人気!!ロシアの<悪人アクーニン>が生んだ、読み応え抜群の推理小説シリーズ待望の翻訳版。主人公ファンドーリンの見事な謎解きがやみつきになります。


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翻訳家の仕事 翻訳家の仕事

岩波書店編集部【編】
岩波書店(2006-12-20出版)
ISBN:9784004310570
定価:777円(本体740円)

当代きっての名訳者37人が勢ぞろい!翻訳という営みに関心をもつすべての読者に贈る、読みどころ満載の翻訳エッセイの決定版。

[目次から]
1 魅せられたる我が魂―翻訳という営み
  *沼野充義著「不自由の果てへの旅」*
2 翻訳者の苦悩と偉大―難しさと技術
3 テクストの呼び声―原作との対話
4 生ける言葉―翻訳と創造の狭間で


沼野充義さんプロフィール

沼野充義さん1954年東京生まれ、ロシア東欧文学者。ハーヴァード大学ティーチングアシスタント、ワルシャワ大学講師などを経て、現在、東京大学文学部教授。書評や文芸時評にも携わる。著書に『屋根の上のバイリンガル』(白水社)、『徹夜の塊 亡命文学論』(作品社)、『W文学の世紀へ』(五柳書院)、訳書にレム『ソラリス』(国書刊行会)、ブロツキー『私人』(群像社)、『ナボコフ短篇全集』(共訳、作品社)、共編書『世界文学のフロンティア』全6巻(岩波書店)、『岩波講座 文学』全13巻など。趣味ロシアのポップス、みんなと楽しく飲むこと、国際シンポジウムをやること。4月から同い年の柴田元幸クンと力を合わせて現代文芸論という新しい専修課程を東大文学部に立ち上げます。


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■場所 紀伊國屋書店新宿本店 5Fカウンター前
■会期 3月7日(水)〜4月中旬
■お問合せ 紀伊國屋書店新宿本店 03-3354-0131

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