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三 十

沼 野 充 義

世 界 文 学 の 現 在 と 未 来

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沼野充義さんエッセイ「世界なんて知らないよ、という前に」
沼野充義さんプロフィール
「世界文学の現在と未来」
1.小さな場所から2.越境・亡命・多言語3.騒がしく痛ましい20世紀4.21世紀にむけて想像力を鍛える番外
<現代文芸論>研究室の創設について
じんぶんやバックナンバー

3.騒がしく痛ましい20世紀

赤い高粱 赤い高粱

莫言【著】、井口 晃【訳】
岩波書店(2003-12出版)
ISBN:9784006020798

〔中国〕

莫言は中国のマジック・リアリズムの旗手。土着的パワーと想像力のスケールの大きさ、奔放なイメージに関しては現代世界で最重量級。中国文学に対してだったら、やはりこういう作家にノーベル文学賞が行くべきではないかと思う。個人的には『花束を抱く女』や『酒国』が好きなのだが、残念ながらどちらも絶版。この『赤い高粱』では、中国の農村を舞台に、土と血と酒の強烈な香りに包まれた荒々しい物語が展開する。

砂時計 砂時計

ダニロ・キシュ【著】、奥 彩子【訳】
松籟社(2007-01-31出版)
ISBN:9784879842480

〔ユダヤ=セルビア〕

ダニロ・キシュは、ユダヤ系のセルビア語作家。すでに『若き日の哀しみ』『死者の百科事典』(どちらも山崎佳代子訳、東京創元社)の二冊が翻訳されているが、最近出た『砂時計』は、たぶんキシュの作家としての可能性をもっともよく示す作品だろう。アウシュヴィッツに消えた父の書いた手紙をもとに、当時父が考えたことを想像し、再構成したという複雑な仕掛けを通じて、失われた時間が甦る。難しい作品だが、見事な翻訳で読ませる。

book 森の中で

ジョナス・メカス【著】、村田郁夫【訳】
書肆山田(1996-03出版)
ISBN:9784879953759

〔リトアニア=アメリカ〕

リトアニアからアメリカに亡命し、ニューヨークで活躍する実験映像作家メカスは、じつは母語のリトアニア語で作品を書く詩人でもあった(彼の名前はリトアニア語では、ヨーナス・ミャーカスと発音される)。深い森の中での自分の彷徨を描きだすこの長編詩は、難民としてアメリカに渡ってきたメカス個人の体験を投影したものだが、その背後にあるのは、故郷リトアニアの森であり、さらに第二次世界大戦によって荒廃したヨーロッパ文明そのものに他ならない。世界と向き合う孤独な放浪者の、繊細でいて強いまなざしに貫かれた佳品。

存在の耐えられない軽さ 存在の耐えられない軽さ

ミラン・クンデラ【著】、千野栄一【訳】
集英社(1998-11-25出版)
ISBN:9784087603514

〔チェコ=フランス〕

プラハの春を背景に、男女の愛を独自の官能的形而上学の視点から描いた、エロティックかつ思索的な小説。存在の「軽さ」「重さ」「キッチュ」といったキーワードについての哲学的考察が、政治的事件や恋愛と交錯する。作者クンデラはチェコからフランスに亡命、いまではフランス語で執筆するようになったが、作家としての力は圧倒的にチェコ語時代のほうが上だろう。この作品は『冗談』『可笑しい愛』と並ぶ、チェコ語で書かれた彼の最良の作品の一つ。

壁に描く 壁に描く

マフムード・ダルウィーシュ【著】、四方田犬彦【訳】
書肆山田(2006-08-30出版)
ISBN:9784879956835

〔パレスチナ〕

アラブ世界を代表するパレスチナ詩人の作品集。評論家の四方田犬彦は自身、独自の構築力と明晰で力強い文体を持った詩の書き手でもあり、その能力が訳詩にも発揮され(主として英訳からの重訳のようではあるが)、パレスチナをめぐる複雑な歴史的事件に翻弄されながらも、祖国解放のために戦ってきた詩人の雄弁な声が響いてくる。詩は内面への耽溺ではなく、コミットメントなのだ。

遠い場所の記憶―自伝 遠い場所の記憶―自伝

エドワード・W・サイード【著】、中野真紀子【訳】
みすず書房(2001-02-20出版)
ISBN:9784622032069

〔パレスチナ=アメリカ〕

エルサレムでパレスチナ人の両親のもとに生まれ、エジプトを経て、ニューヨークに至った文芸理論家サイードが前半生を振り返り、「失われてしまった人生の断片や人々のところに戻ろうとした試み」。サイードは言語的にも文化的にもきわめて複雑な環境の中に育ち、終生自分がいるべき場所にきちんと収まらずにさ迷い続けているという感覚に悩まされてきた。そういった人間の自我の芽生えと確立をたどった自伝の傑作。

それぞれの少女時代 それぞれの少女時代

リュドミラ・ウリツカヤ【著】、沼野恭子【訳】
群像社(2006-07-29出版)
ISBN:9784903619002

〔ロシア〕

日本では『ソーネチカ』(新潮社)で知られるようになった現代ロシアの女性作家、ウリツカヤによる連作短編集。1950年代前半のソ連というスターリン独裁の厳しい時代を背景に、少女たちの幼い憧れや悩み、切ない愛や憎しみを、くっきりと描きわけ、時と場所の規定を越えて読者の心に迫るリアリティが感じられる。

テヘランでロリータを読む テヘランでロリータを読む

アーザル・ナフィーシー【著】、市川恵里【訳】
白水社(2006-09-20出版)
ISBN:9784560027547

〔イラン=アメリカ〕

イスラム革命後のイランで、大学を追われた英文学教師が、学生たちと「禁じられた本」を読んだ記録を綴ったもの。全体主義的な統制の下に置かれた国で、『ロリータ』のようなきわどい小説を読むことは、私たちに想像できないほど困難だったに違いない。そして彼女は、読解を通じて他者に対する想像力を鍛えることを教え、小説の自由が「あらゆる全体主義的な物の見方」に対抗するものだと主張する。小説を読むことの根本的な力に触れていて、感動的。ただし、民主主義を標榜する大国の、反全体主義キャンペーンに利用されないよう、ご用心。


4.21世紀にむけて想像力を鍛える

百年の孤独 百年の孤独

ガブリエル・ガルシア=マルケス【著】、鼓 直【訳】
新潮社(2006-12-20出版)
ISBN:9784105090111

〔コロンビア〕

この選書リストでは、あまりに有名な作品、すでに大部数が流通しているような作品は原則として取り上げないことにしたのだが、これは例外としよう。ラテン・アメリカ文学ブームの原動力となっただけでなく、20世紀後半の世界文学の基点の一つにさえなった感のある長編である。舞台はマコンドという架空の地、魔法と現実が共存し、数え上げることも要約することも不可能なほど奇想天外な挿話がつぎつぎに積み上げられる。眩暈を誘うような、あまりに過剰で豊かな「マジック・リアリズム」の物語世界だ。この作品は、進化の果てに洗練されすぎて死にかけてしまった小説というジャンルにとって、ほとんど起死回生の衝撃力を持つものだった。

やし酒飲み やし酒飲み

エイモス・チュツオーラ【著】、土屋 哲【訳】
晶文社(1998-05-30出版)
ISBN:9784794912602

〔ナイジェリア〕

これまた20世紀後半の世界文学のもはや「クラシック」。やし酒飲みの男が死者の町への旅に出て、底なしの森で体験する奇想天外な冒険の数々を描いている。アフリカの神話的世界が、独自の一種「下手うま」の英語文体にのって、生き生きと語られる。次のエリアーデの場合にも同じことが言えるが、21世紀の小説のためには、こういう作品の原動力になっている神話的な力にもう一度光りを当てる必要があるだろう。ちなみに絶版のため、リストに入れられなかったが、ユーリー・ルィトヘウの『クジラの消えた日』(浅見昇吾訳、青山出版社)も、北方の少数民族チュクチ人の神話的世界を小説という器に盛り込んだもので、描く世界はまったく対照的だが、基本的な力において共通するものを感じる。

エリアーデ幻想小説全集 『エリアーデ幻想小説全集』

第1巻(1936-1955)
第2巻(1959-1971)
第3巻(1974-1982)

ミルチャ・エリアーデ【著】、住谷春也【編・訳】、直野 敦【訳】
作品社
2003-07-25出版(第1巻)
2004-05-15出版(第2巻)
2005-02-25出版(第3巻)

ISBN:9784878935145(第1巻)
9784878935763(第2巻)
9784861820243(第3巻)

〔ルーマニア〕

20世紀最大の宗教学者の一人として高名なエリアーデは、幻想小説の旗手でもあった。学術的著作は英語やフランス語で書いた彼だが、小説だけは母語のルーマニア語で書き続けた。すべてルーマニア語のオリジナルから訳出された全3巻のこの『幻想小説全集』は、世界にも類例のない快挙。「聖なるものの顕現」としての幻想文学を実践したエリアーデは、実験的な小説が隆盛になる20世紀にはちょっと「時代遅れ」のようにも見えたが、先頭を切って走っていたランナーたちが次々にリタイアしたいま、彼は一周遅れのトップランナーとして最先端を走っているように見える。

見えない都市 見えない都市

イタロ・カルヴィーノ【著】、米川良夫【訳】
河出書房新社(2003-07-20出版)
ISBN:9784309462295

〔イタリア〕

これまた『百年の孤独』とともに、20世紀後半の奇想文学のトップランナーとなった現代の古典。マルコ=ポーロが旅の先々で見聞した55もの不思議な都市の様子を、フビライ汗に報告する、という形式になっているが、この見えない諸都市が全体として形作っているのは、ひょっとしたらフィクションという目に見えない帝国なのかもしれない。ちなみに、カルヴィーノのこの作品は、現代ハンガリーのポストモダン文学の代表格、エステルハージ・ペーテルの不思議な長編『ハーン・ハーン伯爵夫人のまなざし』に大きな影を落としている。

千々にくだけて 千々にくだけて

リービ英雄【著】
講談社(2005-04-28出版)
ISBN:9784062128841

〔アメリカ=日本〕

2001年の9・11事件の際に、たまたまアメリカに行く飛行機に乗っていて、文字通り、アメリカと日本の間に宙吊りになった著者の体験をもとにした小説。主人公は英語と日本語の間を行き来しながら、悲劇的な事件に対する批判的な距離を失わない。おそらく9・11を直視した作品の中でも最良のものの一つ。著者はアメリカ人でありながら、日本語を習得し、日本語でしか小説を書かない作家となった。言語を超えて言語を見る視力が強い。

恐怖の兜 恐怖の兜

ヴィクトル・ペレーヴィン【著】、中村唯史【訳】
角川書店(2006-11-30出版)
ISBN:9784047915237

〔ロシア〕

ペレーヴィンは、現代ロシアでカルト的な人気を誇る若手作家。既成「純文学」文壇の狭い枠組みをはるかに越え、若い世代を中心に広範な読者の間で強い支持を受けている。村上春樹の品のよいファンタジーに、キッチュを恐れない島田雅彦の「毒」を加味したような、そんなパワフルかつ神秘的な作家である。彼の最近の長編『恐怖の兜』は、ミノタウロスの迷宮神話を下敷きにした作品だが、そこでは神話の迷路は登場せず、そのかわりに「テキストそのものが迷宮になること」を試みたのだという。全編がインターネットのチャットの形式で書かれている(ペレーヴィンの作品としてはベストとは言いがたいが、旬の一冊)。

さようなら、私の本よ! さようなら、私の本よ!

大江健三郎【著】
講談社(2005-09出版)
ISBN:9784062131124

〔日本〕

作者の分身、長江古義人を主人公とした長編三部作「おかしな二人組」の最後を飾る、大江健三郎の最新長編。エリオット、ドストエフスキー、ナボコフといった先行文学の網の目が張り巡らされた中、テロリズムが蔓延する暴力的な世界に対抗するかのように、「老人の愚行」がドンキホーテ的に展開する。9・11以降の世界に向き合うために必要な想像力を鍛えてくれる最良の一冊。ちなみにタイトルはナボコフの長編『賜物』から採られているが、きっと、われらの大江健三郎はまだまだ小説を書いてくれることだろう。


番外

集英社世界文学事典 集英社世界文学事典

『世界文学事典』編集委員会【編】
集英社(2002-02-26出版)
ISBN:9784081430079

全6巻の『集英社世界文学大事典』(1996-1998年)を改訂した一巻本の事典。コンパクトになったが、内容はむしろアップデートされて充実した。世界的にも類がないほど情報が満載された事典で(世界中の作家や作品名の原語の綴りまでわかる)、日本の外国文学者の総力を結集した成果。この事典で何よりもまず私たちを圧倒し、夢中にさせるのは、この世界にはなんと多くの様々な作家や詩人たちがいるのだろうという発見である。

What is World Literature? What is World Literature?

David Damrosch【著】
Princeton University Press(2003-03出版)
ISBN:9780691049861

コロンビア大学教授の比較文学者による画期的な世界文学論。ギルガメシュ神話や、源氏物語から、現代セルビアの奇想の名人、ミロラド・パヴィチによる『ハザール事典』(邦訳は工藤幸雄訳、東京創元社、残念ながら絶版)にいたるまで、翻訳を通じて世界に流通し、新たな生を形作っていく「世界文学」のありかたを論じている。「世界文学とは翻訳を通じて価値を増す作品である」「世界文学とは、あれこれのテクストの一定の正典目録(カノン)ではなく、いかに読むかということだ(a mode of reading)」という彼による定義は鮮やか。

世界文学のフロンティア 第4巻 『世界文学のフロンティア 全6巻』

第1巻(旅のはざま)
第2巻(愛のかたち)
第3巻(夢のかけら)
第4巻(ノスタルジア)
第5巻(私の謎)
第6巻(怒りと響き)

今福龍太、沼野充義、四方田犬彦【編】
岩波書店
1996-12-10出版(第1巻)
1996-11-18出版(第2巻)
1997-01-10出版(第3巻)
1996-11-18出版(第4巻)
1997-02-10出版(第5巻)
1997-03-10出版(第6巻)

ISBN:9784000261418(第1巻)
9784000261425(第2巻)
9784000261432(第3巻)
9784000261449(第4巻)
9784000261456(第5巻)
9784000261463(第6巻)

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