|
|
| |
|
本を読むさいにもっとも悪い読み方とは、勉強のために、仕事のために読むことである。レポートとか論文を書くために、情報を手に入れるために、目的と効率、それに読み終わる時間などを計算に入れながら、何かを調べるために、キチンと机に坐って読むことである。科学史家のバシュラールはそれを、アニムスの読書と呼んでいた。そんなことをいくら続けていても、少しも面白くない。面白くないことばかり続けていると、『シャイニング』のジャック・ニコルソンのように頭がおかしくなってしまう。
本を読むさいにもっとも理想的な読み方とは、勉強とも仕事とも無関係に読むことである。ただ好きな本だけを気の向くままに読み、途中で飽きたら放り出し、またその気になったら手に取り直すといった、気ままな戯れのうちに読むことである。雨が降って外に出たくない日、本棚から雑然と何冊もの書物を取り出して、ベッドのなかで読み続ける。読んでいるうちに、あれはこうだろうとか、これはどうだったっけなといった考えが浮んできて、思いもよらぬアイデアに結実することがある。魂は気ままに遊んでいるように見えて、実は見えないところで探求を続けていたのだ。
先に引いたバシュラールにいわせると、これはアニマの読書ということになる。アニムスの読書は結局のところ、少ししか読まない。アニマの読書はたくさん読む。貪るように全世界を読みつくそうとする。アニマの読書は、子供時代に戻って、ひとたび見失われた道を辿るかのようにして読むことだ。
ここに選んでみせた50冊には、何の法則も規則もない。ただわたしがこの1年の間に手にとって、読んだり、読み直したりしてきた書物というだけにすぎない。だがそれを書き出してみると、確実にその50冊を貫いて、ここに精神の運動が横たわっていることがわかる。それは書物のなかの運動であるとともに、それに喚起されたわたしの精神の運動でもある。
【四方田犬彦】
|
|
|
| |
|
| |
|
|
|
|
四方田ファンにはたまらない、フェア期間中限定取り扱い直販詩集のご案内です。
通常書店では手に入りません! この機会を是非お見逃しなく。 |
|
■
『眼の破裂』
四方田氏は『ハイスクール1968』にみるように、高校時代はボードレールとランボーに夢中になり、詩作に励んでいました。それが本名、四方田剛己名で記した詩集『眼の破裂』として形になっています。
税込2,000円 |
|
■
『三蔵2』
詩人の小池昌代、歌人の石井辰彦、そして四方田犬彦の3氏が主宰した詩の同人誌。2002年の創刊号から2006年の第6号(終刊号)まで、多彩な詩が集まります。
税込各1,000円 |
|
|
|
| |
|
| |
|
|
|
|
|
■
『月島物語ふたたび』
四方田犬彦【著】
工作舎(2007-01-20出版)
ISBN:9784875023999
定価:2,625円(本体2,500円)
A5変型 404頁
1988年、ニューヨーク帰りの批評家が、東京湾に浮かぶ月島で、長屋暮らしを始めた。
植木が繁茂する路地、もんじゃ焼の匂い漂う商店街、鍵もチャイムもいらない四軒長屋……。
昔ながらの下町の面影を残すこの街だが、実は日本の近代化とともに作られた人工都市だった。
モダニズムがノスタルジアに包まれた街――
批評家はそのベールを一枚ずつはがし、月島の全体像を浮かび上がらせていく。
日本近代化論、文学論、都市論を縦横に駆け巡る傑作エッセイの待望の復刊。
書き下ろしエッセイ、建築史家・陣内秀信氏との対談、各時代の月島風景などを収録した決定版。 |
|
|
|
| |
|
| |
|
|
|
1953年、兵庫県生まれ。比較文学者、映画史家。東京大学で宗教学を、同大学院で比較文学・比較文化を学び、その後、コングック大学、コロンビア大学、ボローニャ大学などで客員教授を務める。現在は明治学院大学文学部芸術学科教授。関心の領域は幅広く、映画はもとより文学、都市、漫画、美術、音楽、料理、民族差別など多岐にわたる。著書は『貴種と転生・中上健次』『モロッコ流謫』『ハイスクール1968』『ラブレーの子供たち』(以上新潮社)、『映画史への招待』『アジアのなかの日本映画』『ソウルの風景―記憶と変貌』(以上岩波書店)、『漫画原論』『摩滅の腑』『「かわいい」論』(以上筑摩書房)、『白土三平論』『見ることの塩―パレスチナ・ボスニア紀行』『パレスチナ・ナウ』(以上作品社)など多数。他にピエル・パオロ・パゾリーニ、エドワード・サイード、ポール・ボウルズ、マフムード・ダルウィーシュなどの翻訳がある。最新作は『月島物語ふたたび』(工作舎)。
■近況■
学問の師であった由良君美の評伝『先生とわたし』(「新潮」3月号)で、師弟愛とは何かを問うた。詩集『人生の乞食』を近々、書肆山田から刊行。6月16日に明治学院大学で「オキナワから日本を見る」という映画史シンポジウムを開催。ジャカルタとバンコックに怪奇映画のリサーチに行く。また年内に北京電影学院の倪震(ニーチェン)、香港の詩人・批評家の也斯(イエース)との往復書簡集を刊行予定。 |
|
| |
|
|