東 浩 紀 の 選 ぶ 2 0 冊
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| 『隷従への道―全体主義と自由』
フリードリヒ・A・ハイエク【著】、一谷藤一郎・一谷映理子【訳】 東京創元社(1992-07-30出版) ISBN:4488013031
自由とは何かについて考えるならまずハイエク。そしてハイエクといえばこの本です。とにかく読みましょう。 |
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『言葉と物』
ミシェル・フーコー【著】、渡辺一民【訳】 新潮社(1989-08出版) ISBN:410506701X
フーコーといえば『言葉と物』なんですが、『監獄の誕生』とどちらを挙げるかは迷いました。フーコーは「近代とは何か」、そして「人間はどうして近代の終わりに立っているのか」ということをもっともきちんと考察した人です。そしてその一番まとまった本がこの本です。近代の終わりなんて皮相的だ、とか言うひとは、ぜひいちどこの本を味わって読んでもらいたいですね。
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『アンチ・オイディプス』
ジル・ドゥルーズ;フェリックス・ガタリ【著】、市倉宏祐【訳】 河出書房新社(1986-05-10出版) ISBN:4309240828
フランス現代思想が生み出した最大の奇書。いわゆる「フランス現代思想」のスタイルここに極まりといった感じで、ぱっと読んでもさっぱり意味がわかりませんが、奇書だと思って読めば非常に面白いアイデアがいっぱい詰まっている。ちょっと狂気を抱えた二人の哲学者が、ナゾの人文系統一理論を創ろうとした、といった感じの本。いつかこんな本を書いてみたいものです。
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『アナーキー・国家・ユートピア』
ロバート・ノージック【著】、嶋津格【訳】 木鐸社(1994-11出版) ISBN:4833221705
これも重要な本です。最近「小さな政府」という言葉が良く言われますが、そういう思想の源泉がこれです。したがって読んでおくべきだと思います。ハイエクとノージックを読んでおけば、いま僕達がどのような世界に生きているのかが、大体わかると思います。こういう本がどうしてフーコーの横に置いてないんでしょうね。
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『システムの科学』
ハーバート・A・サイモン【著】、稲葉元吉・吉原英樹【訳】 パーソナルメディア(1999-06-30出版) ISBN:489362167X
この本も現代思想系の人はあまり知らないと思いますけど、組織工学や経営学ではきわめて重要な本ですね。人工知能や社会学のアイデアも詰まっています。宮台真司さんは好きみたいですね。システム論に興味あるひとにとっては必読。
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『実践の倫理』
ピーター・シンガー【著】、山内友三郎・塚崎智【監訳】 昭和堂(1999-10-25出版) ISBN:4812299292
これも現代思想系には入らないけど、重要な本。というか、こう話していくと、いわゆる「現代思想」ってものの狭さがよく分かりますね。シンガーは生命倫理、動物の解放論などで有名な倫理学者。クローンやゲノムなど、人間が人間の境界を越えて行く技術がつぎつぎと生み出されてますが、そのとき「どこまでが人間なのか」という問題についてもっともラジカルに考えているひとだと思います。シンガーの基本は功利主義的倫理で、利得(interest)を最大化することを公理としておくのだけど、それを徹底すると利得最大化の範囲が人間を超えるんですね。その結果、別に人間と動物との間に境界線を引く必要はなく、重要な境界線はもっと別の形で引けるのではないかと唱えている。例えば、「類人猿のほうが胎児より苦しむ能力があるのだから、オランウータンの権利を胎児の人権より優先するべきなのではないか」というようなことを書いている。その一貫性はすごい。読んだことが無い人は衝撃を受けるのではないかと思います。
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『危険社会―新しい近代への道』
ウルリヒ・ベック【著】、東廉・伊藤美登里【訳】 法政大学出版局(1998-10-10出版) ISBN:4588006096
これは最近は比較的知られているかな? リスクとかセキュリティという言葉が最近良く使われていますが、そういう問題点について指摘した本ですね。私たちの社会はリスクに覆われていて、産業社会では富でいろんなことが決定したけれど、ポストモダン社会における階級はリスクの配分によって決まるんだと指摘している。その指摘は色褪せていないどころか、ますます重要になっている。ベックはギデンズと一緒に「再帰的近代化」という本も書いてます。『波状言論S改』でも何回か話題になってますね。
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『グラモフォン・フィルム・タイプライター』
フリードリヒ・A・キットラー【著】、石光泰夫・石光輝子【訳】 筑摩書房(1999-04-25出版) ISBN:4480847065
実は僕は今回のリストで、デリダやラカンを意図的に外しました。そのかわりラカン派メディア論から一人ということで、キットラーです。キットラーの仕事が面白いのは、精神分析的言説もまた20世紀のメディアが生み出した言説だ、という相対化の視点があるところです。心の理論や社会の理論はメディアの形がつくっていくのだ、ということを言った本で、独特の論理展開に慣れる必要がありますが、コツさえ掴めば面白い本だと思います。メディア論の本を何冊も読むよりは、これ一冊読み解いたほうが勉強になると思います。
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| 『偶然性・アイロニー・連帯―リベラル・ユートピアの可能性』
リチャード・ローティ【著】、斎藤純一・山岡龍一・大川正彦【訳】 岩波書店(2000-10-26出版) ISBN:4000004492
これもまた重要な本ですねえ……。ローティはアメリカの哲学者。プラグマティズムの観点からポストモダニズムも分析哲学も貪欲に吸収したひとです。ポストモダンの本質というのは、簡単に言うと、「自分が信じていることを人に伝えるときに、それを皆が信じるべきだと言えなくなるということ」なんですが、その葛藤について最も簡単に書いている本がこれです。「大きな物語の消失」とか言うと、「いや、僕は大きな物語をまだ信じてます」とかいう反論(?)を言うひともいるんだけど、それが反論になってないことがこれを読めばさっくり分かると思います。
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| 『<帝国>―グローバル化の世界秩序とマルチチュードの可能性』
アントニオ・ネグリ;マイケル・ハート【著】、水嶋一憲・酒井隆史・浜邦彦・吉田俊実【訳】 以文社(2003-01-20出版) ISBN:4753102246
これはまあ、人文系思想書店員のみなさんのためのサービスエントリーですね(笑)。今回のリストは、アガンベンも入れない、デリダも入れない、だれも入れないという感じなので、一冊くらいこういう本を入れないとみんな怒るかなと。僕の考えでは、現代思想の棚は、ローティやサイモンやノージックを入れて大幅に組み替える必要がある。この本に関しては、9・11が起こる前に<帝国>と言っていた、そのジャーナリスティックなセンスは評価に値する。あと、国民国家的な規律訓練ではなく、生権力が帝国を支えるというアイデアもいい。とはいえ、フランス・イタリア系独特の諧謔と文学的隠喩が多くてあまりスマートな本とは言えない。でも最近思想系の事件といえばこれなので、挙げておきました。
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| 『CODE―インターネットの合法・違法・プライバシー』
ローレンス・レッシグ【著】、山形浩生・柏木亮二【訳】 翔泳社(2001-03-27出版) ISBN:4881359932
これは重要な本。いまさら解説する必要はないと思いますが、いまインターネットにおける法規制とか、知的財産権とか、アーキテクチャの権力がどうとかいう問題を考えるのであれば必読。さっきから説明の長短が偏ってますが、短いから軽視ということではありません。ハイエクとレッシグはとても大事です。
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『アラン・ケイ』
アラン・C・ケイ【著】、鶴岡雄二【訳】 アスキー(1992-03-31出版) ISBN:4756101070
僕は個人的には、20世紀のコンピュータ学者で名前が残る人といったら、アラン・チューリングとアラン・ケイではないかと考えてます。ケイはコンピュータの社会的概念を変えました。ケイがいたからこそ、僕たちは今グラフィカル・ユーザー・インターフェイスを享受している。そしてその革命の背後には、様々な認知心理学的な知見があった。その背景がこの小さな本を見れば分かります。
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『順列都市<上><下>』
グレッグ・イーガン【著】、山岸真【訳】 早川書房(1999-10出版(上)、1999-10出版(下))
ISBN:4150112894(上)、4150112908(下) (版元品切)
とにかく声を大にして言いたいのですが、この本が品切れなのは圧倒的に間違っている!グレッグ・イーガンは、何十年に一度出るか出ないかのSF作家で、サイバーパンク以降もっとも傑出した才能を持っている。そのイーガンの小説の中でも、もっとも純粋にイーガンの世界観や人間観が出ているのがこの『順列都市』です。これは、人間を人工知能にするということが何を意味するのかということを、私たちの想像を遥かに超えるかたちで描いており、とても面白い。ちなみに、僕はイーガンの小説こそが、「データベース的」なポストモダンの世界像をもっともきれいに表した文学だと考えてます。そんなエッセイを書いたこともあります。
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『内省と遡行』
柄谷行人【著】 講談社(1988-04-10出版) ISBN:4061588265
日本編はどうも個人的な思い出ものばかりですね。まずこれは、単に柄谷行人の中で僕が一番最初に読んだ本なので挙げました。本を買ったのは高校3年生のとき。でも文章に最初に触れたのは、高1か高2の模試の国語の長文のテストです。本を読んだら、すぐにそのテストに出ていた文章だと分かりました。なにか力があるんですね。いずれにせよ、批評家・哲学者としての僕の活動はこの本から始まります。
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『構造と力』
浅田彰【著】 勁草書房(1983-09出版) ISBN:4326151285
これも記念エントリー(笑)。ちなみに僕はこの本を、1990年のセンター試験の翌日に買いました。高校にセンター試験の自己採点結果を提出しに行かなければならなかったんですが、その帰り道に渋谷の大盛堂で買ったんです。センター試験の自己採点が思ったより悪かったので、頭にきて買った。なるほどふむふむという感じでした。これと一緒に、宝島が出してた現代思想の入門書みたいなものも買ったなあ。いい時代でした。
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『定本 物語消費論』
大塚英志【著】 角川書店(2001-10-25出版) ISBN:4044191107
大塚英志は、90年代以降の日本社会を考えるうえでは外せない書き手です。変な振る舞いや韜晦が多い人なので誤解されていますが、基本的な軸としては、日本の消費社会はいったいどこへ行くのか、戦後民主主義はどこに行くのかをきわめて真剣に考えている。その大塚英志の出発点が『物語消費論』です。これをきっかけにほかの本も読んで見てはいかがでしょうか。
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『制服少女たちの選択』
宮台真司【著】 講談社(1994-11-25出版) ISBN:4062053543
(版元品切)
宮台さんも様々に誤解されていますが――というか、90年代以降は誤解されている人しかいないんです――、とても大事なひとです。宮台さんの仕事はある意味大塚英志よりも分かりにくい。発言が分散してしまっていて、本は無数にあるんだけど、この本を読めば良いというのがあまりない。それでも宮台真司でどれか一冊挙げろと言われたら、この『制服少女たちの選択』になります。理論とフィールドワーク、政治とサブカルチャーの宮台的な混合がいちばんよく現れている。それにしても、これも品切れなの? 日本はどうなってるんだ。
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『戦後の思想空間』
大澤真幸【著】 筑摩書房(1998-07-20出版) ISBN:4480057668
大澤さんは、一般には「批評空間」系というか現代思想系の硬いひとだと思われているけど、若い読者には宮台さんの理論的なカウンターパートだと考えたほうが近づきやすいでしょう。主著はたくさん書かれているので、ここでは逆に、一番アクチュアルで、かつ手軽に読めそうなものを挙げてみました。戦後日本の歩みについて簡潔にまとめつつ、実は大澤さんの立ち位置もよく分かる本です。
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| 『動物化するポストモダン―オタクから見た日本社会』
東浩紀【著】 講談社(2001-11-20出版) ISBN:4061495755
これは僕の著作のなかでもっとも気に入ってます。短いというのもありますけど、自分ではすごく良く書けていると思っているんですよ。完璧といってもいい(笑)。なぜ完璧かというと、結論の宙づりに成功しているからです。この本は、「新世代の萌え万歳」という読み方もされてますが、同時に「若者は動物だからバカだ」とも読めるようになっている。オタクは日本特有であるといいつつ、そうではないとも言っている。そして僕自身、どちらのつもりで書いたのかよくわからない。そういう両義性が維持できたという点に、2001年の時代性が表れていると思います。それに何より、美少女ゲームの画面を引用したりして、なんか不必要な熱気があります(笑)。フランス語訳も出ることになったし、いま僕が死んだらこの本が代表作になってしまいますね……。
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『嗤う日本の「ナショナリズム」』
北田暁大【著】 日本放送出版協会(2005-02-25出版) ISBN:4140910240
北田さんには期待しています。彼は僕と同い年で現れた初めての本格的な論者で、彼の出現はずいぶんと心理的に助かりました。とはいえ、北田さんと僕の論は似ているようで結構違う。この『嗤う日本の「ナショナリズム」』を読むと、その類似点と相違点がよく分かります。『動ポモ』と比較してみてください。
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