出版社内容情報
ルソーとともにフランス革命を推進してきたヴォルテールが,主人公カンディードの運命に託して当時の政治・社会・思想を批判した諷刺小説である.カンディードはさまざまな困難に出会い,いくたびか破局に陥りながらも屈せず,働く喜びを次第に体得してゆく.作品を貫く気品と機智と明晰さはフランス文学のよき伝統を発揮する.
内容説明
人を疑うことを知らぬ純真な若者カンディード。楽園のような故郷を追放され、苦難と災厄に満ちた社会へ放り出された彼がついに見つけた真理とは…。当時の社会・思想への痛烈な批判を、主人公の過酷な運命に託した啓蒙思想の巨人ヴォルテール(1694‐1778)の代表作。作者の世界観の変遷を跡づける5篇のコントを併収。新訳。
目次
ミクロメガス―哲学的物語
この世は成り行き任せ―バブーク自ら記した幻覚
ザディーグまたは運命―東洋の物語
メムノン―または人間の知恵
スカルマンタドの旅物語―彼自身による手稿
カンディードまたは最善説(オプティミスム)
1 ~ 2件/全2件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
NAO
51
現実を見ようともしない哲学者先生の愛弟子カンディードが、苦難に満ちた遍歴の旅の果てに見つける真実の言葉。愛の象徴であるキュネゴントと対照的に、哲学の象徴であるパングロスと権威の象徴である男爵の息子が何度殺されてもまた息を吹き返しすという不気味は、その本質を見事にとらえている。文筆家にならなかったら殺人を犯していたに違いないとまで言われたというヴォルテールの気質の激しさ、当時の社会に対する怒りの激しさが伝わってくる、徹底的な風刺劇。2015/12/13
みっぴー
43
さすが、哲学者らしい物語。かつ、適度な毒をもって体制を批判。万物の相対性を説く『ミクロメガス』。ヴォルテールがロックを崇拝し、宗教的寛容について強い興味を持ち、教会の権威に否定的であったことが窺われる作品。『ザディーグ』善を生まない悪はない、いわゆる全ては善である、という立場を主張した作品。カンディードより、こちらのほうが感銘を受けました。『カンディード』ザディーグと同じく、主人公が次々試練に遭います。ザディーグのような華々しいラストではなかったのですが、落ち着く所に落ち着きました。平穏な日常は奇跡。2018/09/23
イプシロン
41
奴隷制や植民地からの搾取が当然視され、海賊行為が横行した大航海時代。宗教改革による30年戦争とそれを終結させたヴェストファーレン条約。そのすぐ後の時代を生きたのがヴォルテールである。彼が生きた時代は王侯貴族や宗教権威に座する一部の階級が我が春を謳歌せんとし、人倫は堕落腐敗し世は乱れに乱れ、人を家畜以下にみて殺害するのが日常という時代であった。ヴォルテールが当初、そのような悪世を耐えるために最善説――人の目には極悪に見える惨事も、神の導きであり最善と見るべきだという思想――を信じたかった気持ちは理解できる。2020/10/05
翔亀
39
【ゲーテの時代11】(10からの続き)こちらはカンディードとそれ以前の5編の哲学コントが収録されており、シリウス星人と土星人が登場するSF「ミクロメガス」やバビロンを舞台とする幻想小説「ザディーグ」など小説として面白く、それぞれ趣向を凝らしている。しかし、いずれも主題はライプニッツ最善説をめぐるもので、ヴォルテールの考え方が変遷していることがよくわかる。訳者がそれとわかるよう収録作品を選択したのだろうが、見事に、最善説への信奉から疑問、批判へと変化しているのだ。訳者解説ではこれをヴォルテール自身の仕事の↓2021/01/12
km
33
修道僧の教えまでの長いストーリー(本書ではコントというらしい)は、マルチンの、人間は不安による痙攣か、さもなければ倦怠の無気力状態の中で生きるよう生まれついたのだ、につきると思います。それに対する修道僧の教えがこの本の肝です。人は自分の畑を耕さなければならない。カンディードは風刺ではなく、人間讃歌だと思います。最善説を認めた風に終わるのがチャーミングでした。2016/06/09