内容説明
江戸幕府が開かれて180年たった、天明期、最下級の御家人で小普請組の3人の幼馴染が活躍。当時は竹刀剣法花盛りの中で、彼らはいまだ木刀を使う古風な道場に通っている。ある日、江戸城内で田沼意知を切った刀を手にしたことから物語が動き始める。いまだ人を斬ったことがない貧乏御家人が刀を抜くとき、なにかが起こる……。傑作時代ミステリー。第18回(2011年)松本清張賞受賞作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ふじさん
80
第18回松本清張章受賞作。未来の展望が開けない三人の若者たちの切なく辛い青春小説。青山文平が時代小説が時代小説に舵を切った初陣の作品。まだ、ぎこちなさは感じるが彼の作品では、今まで読んだ中では、一番好きな作品。貧乏御家人の村上登の生き様や立ち姿がいい、三人の若者の友情や置かれた環境で生まれる葛藤、更には見えない敵に立ち向かうひた向きさ、健気な恋の行方、謎解きの楽しさ等、読み応え十分。作家の後の作品以上に、読者を引き付けて離さない物語の展開に心がわくわくした。最近読んだ本では一番、楽しませて貰った。2025/02/06
天の川
56
下級武士の家に生まれ、生活に汲々としながらも剣の道を邁進していた幼馴染3人。主人公の登は剣の才があり、真直ぐな性格で2人の友をかけがえのない存在としている。3人の中に少しずつ亀裂が入っていく…。出没する辻斬りに翻弄され、友が愛しい人が凶刃に斃れてゆく。まっすぐな人柄だからこそ、彼には親友2人のそれぞれが抱えていた悩みや苦しみ、追い詰められた気持ちが見えなかったのだ。身分社会、格差社会に生きる若者の苦悩がひしと伝わってくる。読み応えのある小説だった。2024/05/28
キムチ
49
続けて読むと、内省志向が深まり、自己嫌悪になるが、時を隔てて読むととてつもないものを与えてくれるのが時代物。氏の作品は数作目ながらいつも深い思惟の海を漂わせて貰える.登の青春グラフティーとみるか、江戸期社会の身分の差、困窮の泥沼、刀社会の理不尽世相等など切り口は多彩・・しかもこのボリュームで。松本清張賞とあるから大膾の正体と対峙する武術人ならではの真骨頂が主題か・・それにしても人が消えて行き過ぎ。現代に比べ、男女ともに精神年齢のバランスを欠く発達や閉じられた世界故の常軌を逸した人間像が良く見えてくる。2024/04/25
森オサム
43
著者初読み。第18回松本清張賞受賞作です。時代小説は普段全く読まないので、本作が有りがちなのか、異端なのかは分かりません。ただ、余りにも重く、余りにも切なく、本当に悲しいお話でした。予備知識無しに読み始めたので、どんな事が起きるか全然知らなかったのですが、青春小説だったんですね。ミステリー要素も有りますが、エンターテイメントとして面白かったとか、楽しめたとは言えず、息が詰まる様な作品でした。秀作。蛇足ですが、文庫で読まれる方は、巻末解説先に読まない方が良いですよ。作品内容が最後まで全部書いてありますから。2016/04/16
reo
39
三十俵二人扶持の小普請組の貧しい武士の倅。村上昇、青木昇平、仁志兵輔の三人と蝋燭問屋の次男坊巳乃介たちの青春群像かと思ったが…。あるとき巳乃介から登は名刀”一竿子忠綱”を4両2分の駄賃付きで預かる。その事で筋違いの妬みや嫉みで3人の仲が微妙に変化してくる。それと並行して、探索方が血眼になって探している辻斬りが昇平か兵輔か巳乃介なのか?それとも道場主の佐和山正則かも?などと変に気を回し過ぎて結局誰なのか最後まで分からない。それと何時もながらの女の性根がチラッと垣間見え、文平ちゃんまたやっちゃったネと納得。2017/12/30