内容説明
京都の旧家に嫁いだ榊原美津子は、子供に恵まれずに十数年。本家の跡取りの出産を期待される重圧に耐えかね、妊娠していると言ってしまった美津子は、産院から新生児を連れ去ろうとして看護師・潤子に見咎められる。その後まもなく、榊原家では幸せそうな夫妻と赤ん坊を囲んで、盛大な祝宴が開かれていたが…。子に恵まれない女、子を奪われた女、子を望まない女──女たちの暗い情念を描いた傑作。第19回サントリーミステリー大賞・読者賞ダブル受賞作!
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
siro
37
ちょっと時代遅れな話のような気もしますが、田舎のほうではまだある話なのかしら。望んでもなかなか子供が出来ない夫婦の失望感や哀しさ、周囲のプレッシャーからくる焦りなどがリアルで入り込んで読んだ。後半の展開には目が離せなくなりましたが、ラストは少し呆気なかったかも。子供を廻り狂気を纏っていく女性達が怖くて悲しい。2013/10/23
エドワード
18
子盗り…「八日目の蝉」がまず思い浮かぶ。京都北部の雲ケ畑の旧家に嫁いだ美津子は、結婚13年、子供に恵まれない。姑や親戚の冷たい視線がつらい美津子は、ある策を思いつく。祇園のホステス、ひとみは妊娠に気づかず、中絶出来ない時期に入ってしまう。ままならぬ人生、子供の欲しい人間と、欲しくない人間の間にさす<魔>。美津子は晴れて長男・哲也を抱くが、その直後からかかる無言電話。美津子とひとみの理性と感情の揺れが率直に描かれ、先の見えない展開が実にスリリング。しかし底辺に流れるのは女たちの哀しみ。明るい終幕に救われる。2018/05/22
柊子
18
私も子供がなかなか出来なかったから、気持ちはよく判る。若奥さんの気持ちももちろんだが、それ以上に、姑の気持ちや行動が理解できるし、よく判る。だから、この話はなおさら重く感じた。守りたかったのだろうなあ。息子夫婦を、家を、そして孫を。たとえ他人が産んだ子供であっても、ね。2013/07/07
hit4papa
13
第19回(2002年)サントリーミステリ大賞・読者賞のダブル受賞作です。京都の旧家に嫁いだ、子宝に恵まれない女性を軸に展開する心理サスペンスです。登場する三人の女性の、それぞれの母性が怨念のようにうずまき、痛々しくも悲しい物語を形成していきます。心がささくれだってくる様がじりじりと伝わってくるのは、作者の文章力が高いからでしょうね。
たこやき
8
作品全体を通してのサプライズはないが、しかし、細かな仕掛けを色々と配し、最後まで飽きさせずに読ませる辺りは巧い。そして、美津子、潤子、ひとみ、三者の狂気と、そこを結びつける峰岸と、常に嫌な雰囲気が溢れ、三者が結びついての後半は非常にスリリングだった。ちょっとだけ、最後はアッサリした感じかな? でも、面白かった。2010/06/13