内容説明
どん底の境遇のなかで謹厳実直に物を書き続けて三十余年。不意に多少の財産を手にしたライクロフトは、都会を離れて閑居する。四季折々の自然の美しさに息を呑み、好きな古典文学を読み耽りながら、自らの来し方を振り返る日々―味わい深い随想の世界を心に染みる新訳で。
著者等紹介
ギッシング,ジョージ[ギッシング,ジョージ] [Gissing,George Robert]
1857‐1903。英国の小説家。1890年には自分の分身のような人物を主人公とした『三文文士』が好評を博して文壇での地位を確立した
池央耿[イケヒロアキ]
1940年生まれ。翻訳家(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
KAZOO
109
すでに岩波文庫でなんども読んでいるのですが最近新訳が出たことと、先日、北方謙三さんの話を聞いて(旅に出るときはこの本を持っていくそうです)読んでみました。岩波のほうはいかにも訳を読んでいる(自分も学生のときにこの本を訳すことが課題でしたので)という感じがするのですが、この本も同じような感じでした。もう少し現代的な訳を期待したのですが。まあどこを読んでもいいので時たまぱらぱら読み直すのもいいのでしょう。2018/07/16
syaori
61
貧乏文士ヘンリー・ライクロフト。そんな彼が50を過ぎた頃にひょんなことから終身年金を受ける身分になり、田舎に隠棲。そこでの生活や思索を綴ったものをまとめた本、という趣向。若く健康だったけれど食事にも困っていた時代を思い、道端の草花の名を調べて挨拶し、菜園の野菜と親しみ、本を開いてその思い出や新しい発見を楽しむ。そんな「遠ざかる記憶」を懐かしみつつ現在の「満ちたりた閑居」での「人生の秋」を享受する生活の一端に触れるだけで心が落ち着くようで、彼の筆から立ちのぼる静謐で幸福な薫香を胸いっぱい吸い込む読書でした。2020/05/13
ネギっ子gen
38
【人知の働きを評価する試金石は一つしかない。後世の判断だ】本書をミヤビとライライさんに教えられ――。著者の代表作であり自叙伝風エッセイですが、ライクロフトが反動的な老作家なのに対し、ギッシングは労働者階級の生態をリアリズム的手法で描く小説家で、本書発表時は42歳。巻末に、解説と年譜と訳者あとがき。死後、手稿を出版した知人の「緒言」で、<当てもなく書き溜めたちぐはぐな原稿を形よくまとめようと工夫した形跡もない。一人称で語ることはひどく嫌ったと想像する。いかにもおこがましい印象を与える憂えがあるからだ>と。⇒2024/06/01
ひろぞー
21
風景描写が美しかった。岩波文庫から出ているものも読んで理解を深めたい。当時のイギリスの雰囲気も何となく分かってくる。ギッシングは余生を本作のような感じで過ごしたかったんだろうなぁ。2017/09/04
かもめ通信
20
かねて気になっていた本をようやく読んだのは、またまた『やりなおし世界文学』の影響だ。美しい自然描写だけでなく、既に筆を置いたという設定のライクロフトの個人的な日記だからこそ言えるあれこれ、食い扶持の心配なしにのんびり暮らせる金銭的ゆとりに加え、長患いすることなくぽっくりと逝ったことまでもが、世界の文豪たちがこぞってこの作品を愛読した理由かもしれないなどと思ったり。2023/04/18