内容説明
今からちょうど千三百年前、『古事記』が誕生した。律令の制定や平城京遷都など、古代日本の急速な近代化が進められるなかで、なぜこのような「時代に遅れた書」が作られたのか。縄文・弥生時代に遡る神話が、国家成立期にまで生き残ったのはなぜか。「記序」贋作説を検証しながら分析する。さらに、アメノイワヤト神話を例に、歌垣、酔っぱらい体質、銅鏡と鉄鏡の違いなど、多様な視点から新旧の層に区分けして解読する。
目次
第1章 点としての誕生―和銅五年(七一二)一月二十八日
第2章 線としての誕生―無文字・ムラ段階から文字・国家段階へ
第3章 祭式が語る誕生
第4章 考古学が語る誕生
第5章 少数民族神話が語る誕生
終章 新しい日本像をもとめて
著者等紹介
工藤隆[クドウタカシ]
1942年栃木県生まれ。東京大学経済学部卒業、早稲田大学大学院文学研究科修士課程修了、同博士課程単位取得退学。大東文化大学文学部日本文学科教員(日本古代文学)。専攻は日本古代文学・文化人類学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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モリータ
13
神話の段階わけ、ふつう知らない長江流域少数民族の神話、アマノイワヤトの話に反映されると考えられるものの整理など面白かったが、酒を飲んで吐くのは神懸かり、アマノイワヤト神話に少数民族の太陽と月の神話が流入したもの(だが、月と太陽を撃ち落とすといった部分は消えた)といった話はそうとも取れる、という感じで、あまり納得しなかった。あと最終章の日本人のアイデンティティー云々の話はこの紙幅では必要ないのではとも。そしてやはり日本書紀は読まんとなぁ。2016/02/05
よしひろ
8
天皇の系譜を知り、シャーマニズムや卑弥呼といった古代の日本人の信仰や政治についても見ていく。実資料にあたっており、現代語訳もあるので、理解しやすい。2016/03/28
のんき
6
古事記と日本書紀はほぼ同じ時代に編纂された書物だけれども、その性格は異なっている。日本書紀は当時の現代政治史であるのに対し、古事記は「古」への回帰の書である。その「古」をさらに新旧の層にわけ、アメノイワヤト神話を例にとって解説していく。 「ムラ段階社会」を「縄文弥生期」と一括りにしてしまうことに抵抗を感じたけれども、こういう視点で古事記を読んでいくのも面白いと思った。2012/06/22
midorikawa-e
5
以前、別の本の感想で、ドメスティックな視点だけでは記紀神話は理解できないなんてことを書きましたが、この本を読んで、さらにその意を強くしました。著者は、文献のみならず、長江流域の少数民族の口承神話を求めてフィールドワークもされています。そのスタンスを支持したい。細かい部分が正しいかどうかといった判断は、門外漢の私には無理ですが、神話の起源や伝播、さらにはそれが部族や国家の成立とどう関わるのかについて、結論(というか正解)を早急に求める必要はないと思います。2015/05/12
狐狸窟彦兵衛
4
編纂から1300年と言われる最古の歴史書だが、そこに封印された日本が形をなす前の、古い古い記憶が、沖縄や朝鮮半島、長江流域と広範な東アジアの神話や伝承と結びついていることを、取材を通じて実証しようとしていて、大変興味深い内容でした。ちょうど、大神神社や太安万侶ゆかりの多神社など大和路を歩いたので古代に思いを馳せることができました。2012/10/31