内容説明
戦後犯罪史に残る凶悪犯に降された死刑判決。その報を知ったとき、正義を信じる検察官・大友の耳の奥に響く痛ましい叫び―悔い改めろ!介護現場に溢れる悲鳴、社会システムがもたらす歪み、善悪の意味…。現代を生きる誰しもが逃れられないテーマに、圧倒的リアリティと緻密な構成力で迫る!全選考委員絶賛のもと放たれた、日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作。
著者等紹介
葉真中顕[ハマナカアキ]
1976年東京生まれ。2009年、児童向け小説『ライバル』で角川学芸児童文学賞優秀賞受賞。’11年より「週刊少年サンデー」連載漫画『犬部!ボクらのしっぽ戦記』にてシナリオ協力。’12年『ロスト・ケア』にて第16回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞し、デビュー。続く受賞後第一作『絶叫』も「週刊文春ミステリーベスト10 2014年版」(文藝春秋)、「このミステリーがすごい!2015年版」(宝島社)などにランキング入りし、話題となる(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Tetchy
678
新人とは思えぬ堂々の書きっぷりで思わずのめり込んで読んでしまった。介護生活は今40代の私にとってかなり現実味を帯びた問題になっている。実際本書に全く同じ境遇の人物が出てきて私は大いに動揺した。そう、ここに書かれていることは物語の世界のことではなくもう目の前に起こりうることなのだ。日本の介護制度の想像を超える悪しき実態を知ってもらうためにもより多くの人に読んでもらいたい作品だ。日本は今自分で作ったシステムの狭間で悲鳴を挙げている。我々は人の命を重んじることで実はとんでもない過ちを犯しているのかもしれない。2016/12/28
hit4papa
403
連続殺人犯に対する死刑判決で幕を開ける本作品は、現代の介護の実情に踏み込んだ社会派ミステリです。ターゲットとなった四十人を超える被害者は、いずれも要介護老人。多くの人々が避けては通れない問題が読者に重くのしかかってくるでしょう。真犯人を追い詰める検事の正義という信念は、この物語の中ではとても奇異なもののように思えてきます。殺人犯の語る正義に心を揺さぶらざるを得ないのです。犯人当てとして意外性がありフーダニットとしてよくできているのですが、見るべきは破滅へと突き進む社会において何が正義かなのだと思います。2017/03/12
nobby
370
介護保険業界で十数年働く身としては、それほどの衝撃を受けず、むしろあるある感覚で読んでしまった。要介護者を抱える家族そして介護職の抱える葛藤を見事に読ませる。コ◯スン、ニ◯イ、◯民のモデルとする背景もほぼ事実のままのイメージ。個人的には久坂部作品の“廃用身”“破裂”の方が斬新かなぁ…全体的に悲観的な提言ばかりは同意だが、稀に何気なく対峙する喜びや笑顔に魅かれてしまうのがこれまた介護。2015/03/05
ナルピーチ
369
その題材はとても深くて考えさせられる。誰しにもやがて訪れる“介護問題”を痛切に説いた内容に読後に自問自答するが、今の自分はその答えを出す事ができなかった。当事者でない限り知る事のない、介護をする側、受ける側の苦悩と葛藤。高齢化社会と言われる時代の中で、誰もが満足いくシステムなんて有りはしない。だからと言って、死んだ方がいい人間なんていない。なので本作に登場する犯人には同情はできない。改めて人命とは何か。その尊厳を重く受け止め、向き合っていく必要を感じた。2021/11/13
イアン
351
★★★★★★★★★☆介護問題を扱った葉真中顕のデビュー作。43人を殺害したとして死刑を宣告された男。しかし男はその瞬間、不敵な笑みを浮かべていた…。稀代の殺人鬼である<彼>は一体何者なのか。そしてその真の目的とは?介護という現代社会が抱える闇に切り込む社会派としての鋭さと、読者を欺くミステリとしての意外性を併せ持つ本作は、新人作家によるものとは思えないほどの完成度を誇る。善悪の判断基準すら歪めてしまう壮絶な現実。43件の連続殺人という設定は突飛だが、実際にあってもおかしくないと思わせるリアリティに震えた。2022/12/09