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じんぶんや
三十四

五十嵐太郎

人文学としての建築


●政治


夢と魅惑の全体主義 夢と魅惑の全体主義

井上章一【著】
文藝春秋(2006-09-20出版)
ISBN:9784166605262

著者による久しぶりの建築論。帝冠様式を戦犯扱いする歴史観の修正を迫った『戦時下の日本の建築家』の続編であり、日伊独ソ中の政治と建築の関係を分析した比較文化史を展開する。革命政権ではなかった日本だけが華やかな建築を政治利用しなかったという指摘は興味深い。もともと彼がテラーニ萌えだったことを知ったのも収穫だった。

皇居前広場 皇居前広場

原 武史【著】
光文社(2003-04-20出版)
ISBN:9784334031916

日本の都市にはヨーロッパ的な広場が成立しないと言われる。しかし、東京のど真ん中に皇居前広場が存在する。このもっとも有名な広場をめぐる空間の政治史は、もちろん天皇論なのだが、すぐれた都市論として読める。同じ場所が、時代によって異なる意味をもち、様々な使われ方をするという点も、建築の立場として興味深い。

思想としての日本近代建築 思想としての日本近代建築

八束はじめ【著】
岩波書店(2005-06-28出版)
ISBN:9784000234078

建築家の系譜や様式の問題ではなく、思想として読む日本近代建築史の大著。当時の言説から最新の研究成果まで、膨大な資料を駆使しながら、国民、戦争、政治など、大きな物語に焦点を当てる。西洋のモダニズム批評で知られる著者ゆえに、日本の状況を相対化しつつ、柳田国男や柄谷行人らにも触れ、横断的な精神史のリゾームを掘り起こす。

第三帝国の神殿にて―ナチス軍需相の証言 『第三帝国の神殿にて―ナチス軍需相の証言』
<上巻><下巻>

アルベルト・シュペーア【著】、品田豊治【訳】
中央公論新社(2001-07-25出版、2001-08-25出版)
ISBN:9784122038691、9784122038813

建築家としてヒトラーのヴィジョンを実現すべく建築や都市計画を手がけた後、ナチスの軍需相として戦争工業を推進する役割を担ったシュペーアの回想録。戦争と政治にほんろうされた激動の半生が綴られる。ヒトラーの演説に感激し、ナチスに入党。二人は、千年後に偉大な廃墟として残るような誇大妄想の建築をめざした。そして戦時下では、トーチカや工場の建設、兵器の生産を指揮する。本書は、政治と建築とテクノロジーが結びつく貴重なドキュメントである。ところで、彼は刑務所でも新しい建築の動向をチェックしていたという。

記念碑の語るアメリカ―暴力と追悼の風景 記念碑の語るアメリカ―暴力と追悼の風景

ケネス・E・フット【著】、和田光弘【訳】
名古屋大学出版会(2002-08出版)
ISBN:9784815804404

本書は、悲しい事件の記憶が、どのように風景に刻まれるかを、「聖別」、「選別」、「復旧」、「抹消」という4つのカテゴリーに分類する。紹介されるアメリカの様々な事例は、実に興味深い。グランドゼロや原爆ドームのように記念碑化されるもの、池田小学校やサティアンのように解体されるものなど、この視点は広く展開しうるだろう。

パワー・インフェルノ―グローバル・パワーとテロリズム パワー・インフェルノ―グローバル・パワーとテロリズム

ジャン・ボードリヤール【著】、塚原 史【訳】
NTT出版(2003-08-08出版)
ISBN:9784757140509

ボードリヤールによれば、デジタル化された経済のパワーを体現するツインタワーは、自殺攻撃により、あたかも自壊するような最期を遂げたことでもパワーを示したという。二つの塔は消滅というシンボルを残した。それは全能性が消滅することの象徴でもある。今回のテロでは勝ち誇ったグローバリズムが自らと格闘している新しい世界戦争も示された。その結果、セキュリティの恐怖政治が全面化する。が、それはテロリズムの真の勝利にほかならないという。


●都市


S,M,L,Xl Subsequent HRD S,M,L,Xl Subsequent HRD』(洋書)

Koolhaas, Rem【著】
Monacelli Pr(1998-05出版)
ISBN:9781885254863

ブルース・マウとのコラボレーションにより、辞書のように巨大な書籍がつくられ、話題を呼んだ。本書のテーマは、大きさである。SからXLまで、サイズごとに、彼の作品を収録しつつ、「ビッグネス」や「ジェネリック・シティ」などの概念を提唱している。建築が一定の大きさを突破すると、古典的な常識が無効になるという。究極の巨大建築にとって、美学やヒューマニズムは不要なのだ。またジェネリック・シティは、歴史性を喪失したグローバル時代の無印都市である。

要塞都市LA 要塞都市LA

マイク・デイヴィス【著】、村山敏勝、日比野 啓【訳】
青土社(2001-04-21出版)
ISBN:9784791758784

90年代を代表する都市論。犯罪への恐怖から、監視の体制を強化して他者を排除し、裕福な者が自己要塞化を行うロサンゼルスの状況をあぶりだす。この多民族都市では、近代社会を支えた自由な公共圏が壊れ、ネガティブな未来像がすでに実現されている。“MUTATIONS”でも、サンフォード・クインターがアメリカにおける公共空間の衰弱を指摘していたが、日本も確実に同じ道を進んでいる。

自由を考える―9・11以降の現代思想 自由を考える―9・11以降の現代思想

東 浩紀、大澤真幸【著】
日本放送出版協会(2003-04-30出版)
ISBN:9784140019672

筆者はセキュリティ過剰の空間を分析する『過防備都市』を執筆した際、この本から大きな刺激を受けた。1995年と9.11以降の状況に対して、もはや通用しない古典的な議論で抵抗するのではなく、われわれが奪われている概念そのものを新しく創造することを唱えている。その何かを名づけることを期待したい。

スケートボーディング、空間、都市―身体と建築 スケートボーディング、空間、都市―身体と建築

イアン・ボーデン【著】、齋藤雅子、中川美穂、矢部恒彦【訳】
新曜社(2006-08-01出版)
ISBN:9784788510142

計画者から与えられるのではなく、いかに能動的に都市空間を使いこなすか。スケートボードの歴史をひもときながら、本書はこうした問題を提起する。都市に身体的なリズムを刻むスケートボーダーは、建築批判の実践者でもある。自らスケートボードを楽しむ著者は、社会的な視点を導入し、サブカルとの交差から、建築史に新しい地平を導いた。

メイド・イン・トーキョー メイド・イン・トーキョー

貝島桃代、黒田潤三、塚本由晴【著】
鹿島出版会(2001-08-20出版)
ISBN:9784306044210

混沌とした東京を再評価する都市観察のプロジェクト。彼らは美/醜などのカテゴリーを外し、有名建築家の作品ではなく、「ダメ建築」から機能的な複合施設を発見する。倉庫の屋上がテニスコートになった「倉庫コート」など、70の物件を紹介しつつ、「異種格闘技」などの興味深い建築的な概念をつむぎだす。すでに海外でも注目されはじめており、桂離宮に代わる新しい日本建築像を提示する。

復興計画―幕末・明治の大火から阪神・淡路大震災まで 復興計画―幕末・明治の大火から阪神・淡路大震災まで

越沢 明【著】
中央公論新社(2005-08-25出版)
ISBN:9784121018083

近代以降、日本は、地震や戦争など、大きな破壊を幾度も経験し、その都度、都市の弱点をあらわにしてきた。逆に言えば、そうした災害の後は、理想を反映した大胆な都市計画のチャンスにもなるだろう。越沢明は、幕末・明治の大火から阪神大震災まで、どのような復興が立案され、実現したか、あるいは挫折したかを描く。彼によれば、戦時中の防空も、現代の震災対策も、基本は同じである。燃えやすい木造密集市街地が鍵になるからだ。地震という無意識は、日本の都市計画に大きな影響を与えてきた。


●批評


現代建築・アウシュヴィッツ以後 現代建築・アウシュヴィッツ以後

飯島洋一【著】
青土社(2002-05-20出版)
ISBN:9784791759552

記憶と忘却をめぐる現代建築論。精神分析の手法を建築の評論に導入し、明るい風景のなかに20世紀の暗い影、すなわち戦争の記憶を読む。『シックス・センス』の少年が、日常において死者の霊を見てしまうように、飯島はいたるところで死の徴候を発見する。こうした彼の姿勢は、記憶なき現代日本の軽い建築への批判にもつながる。

建築零年 建築零年

鈴木了二【著】
筑摩書房(2001-12-12出版)
ISBN:9784480860620

おそらく、もっとも鋭く、美しい批評を書ける建築家である。「零年」とは、連続的な歴史がもつ時間の流れを断ち切ることを意味しており、そうした地平から建築を改めて考察することをめざす。第一部では、ミース、カーン、テラーニ、アアルトらの巨匠を論じるが、近代建築史への批判となっており、生々しい建築的な事件の現場に立ち会うかのような思考の体験になりえている。第二部では、インスタレーションを含む自作を分析し、第三部ではその思考を映画に解き放つ。

歪んだ建築空間―現代文化と不安の表象 歪んだ建築空間―現代文化と不安の表象

アンソニー・ヴィドラー【著】、中村敏男【訳】
青土社(2006-10-10出版)
ISBN:9784791762927

フロイトを援用した『不気味な建築』に続き、精神分析の枠組を導入した建築論である。近代都市における広場恐怖症、閉所恐怖症、空間恐怖症などを検証した後、ヴィト・アコンチらの美術とコープ・ヒンメルブラウらの建築を歪んだ不安な空間という同じ土俵にのせて分析しているまなざしが興味深い。セキュリティにこだわる現代の「過防備都市」症候群も、まさしく空間の精神分析の対象になるのではないかとの思いを強くした。

スクウォッター―建築×本×アート SQUAttERー―建築×本×アート

大島哲蔵、大島哲蔵アーカイブ【著】
学芸出版社(2003-06出版)
ISBN:9784761523183

2002年に亡くなった建築評論家の「最初で最後」の著作。不法占拠という書名が彼の営んだ洋書屋の名前でもあったように、反体制的な姿勢を貫いていた。決して器用な文章ではないが、怒りといらだちが根底に流れている。本書は彼の影響を受けた若い建築家らが、次世代に読みつがれることを願い、現代的なセンスを注入しつつ編集したもの。

book 建築に失敗する方法―建築論集

林昌二【著】
彰国社(1980-10出版)
ISBN:9784395001422

大手の設計組織、日建設計に所属し、パレスサイドビルなどを手がけたオフィスビルの第一人者が、建築のプロとして横断的なデザイン論を語る。名エッセイの数々ゆえに、とにかく文章が読みやすい。奇をてらわない、オーソドックスな良いデザインとは何か。技術や素材に対する豊富な知識に裏づけられた文章は、説得力をもつ。会議における椅子とテーブルのデザインはどうあるべきか、形骸化した「安全第一」のスローガンへの苦言、デザインしすぎてわかりにくい案内地図の批判など、日常の出来事からも秀逸なデザイン論が展開される。

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