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じんぶんや
三十四

五十嵐太郎

人文学としての建築


●歴史


日本建築の空間 日本建築の空間

井上充夫【著】
鹿島出版会(1983-04出版)
ISBN:9784306050372

通常の日本建築史は、三手先や野屋根の発生など、木造のディテールにこだわった説明が中心になっており、専門外にはやや読みにくいが、これは西洋の美学を参照しつつ、「空間」の歴史として描く。その結果、外国の研究者が日本建築を分析したような割きりの良さがある。ゆえに「日本建築史」の分野からは異端的な扱いもされるのだが、逆に美術の分野からは読みやすいはず。

book モラリティと建築

デーヴィド・ジョン・ワトキン【著】、榎本弘之【訳】
鹿島出版会(1981-02出版)
ISBN:9784306051683

ワトキンはすでに言説化されたものを対象に理論を組み立てていく。メタ建築史だ。第一部では19世紀の主要な理論を展開したピュージンやヴィオレ・ル・デュク、第二部では20世紀の近代建築を推進したル・コルビュジエやギーディオン、そして第三部ではワトキンの師匠であるペブスナーらの著作を検証する。建築の歴史の記述も無色透明ではなく、イデオロギーを帯びることを教えてくれる。

世紀末の都市と身体―芸術と空間あるいはユートピアの彼方へ 世紀末の都市と身体―芸術と空間あるいはユートピアの彼方へ

長谷川 章【著】
ブリュッケ(2000-06-10出版)
ISBN:9784795216808

1990年代は、建築においても身体/ジェンダー論が注目されたが、本書はこの視点から近代を再考した労作。建築史家の長谷川は、複数のラインから、近代が新しい建築と同時に新しい身体を要求し、建築が理想的な身体の形成に奉仕したことを分析する。生活に密着する建築の問題はハコに限定されない。議論はドイツに限定しているが、他の地域でも近代建築史の書きなおしが必要だろう。

マスメディアとしての近代建築―アドルフ・ロースとル・コルビュジエ マスメディアとしての近代建築―アドルフ・ロースとル・コルビュジエ

ビアトリス・コロミーナ【著】、松畑 強【訳】
鹿島出版会(1996-06-20出版)
ISBN:9784306043442

建築のイメージは写真を通じて流布される。本書は、モダニズムとメディアの共犯関係を分析したもの。例えば、雑誌や書籍などのメディアを積極的に活用し、外部を眺める装置=カメラとして建築を設計したル・コルビュジエと、記録をあまり好まず、内部に視線を向ける空間にこだわったアドルフ・ロースを対比的に位置づける。当時の写真や映像の分析は、近代建築史研究に新しい視点をもたらした。またまなざしの問題に触れていることから、ジェンダー論にも接続している。

現代建築史 現代建築史

ケネス・フランプトン【著】、中村敏男【訳】
青土社(2003-01-30出版)
ISBN:9784791760145

長く待たれていた名著の翻訳。通史でありながら、細かい分析も怠らない。フランプトンは「批判的地域主義」の概念を掲げたように、建築に固有な技術や場所を重視する一方で、建築を記号に還元するポストモダンの評価は低い。だが、過去を回顧するだけではなく、未来に開かれた現代建築も射程に入れることで、アクチュアルな本となっている。


●磯崎新


『磯崎新の建築談議 (全12巻)』
磯崎新の建築談議 (全12巻) [ 第1巻 カルナック神殿(エジプト時代) ]
[ 第2巻 アクロポリス―ギリシア時代 ]
[ 第3巻 ヴィッラ・アドリアーナ(ローマ時代) ]
[ 第4巻 サン・ヴィターレ聖堂 ビザンティン ]
[ 第5巻 ル・トロネ修道院“ロマネスク” ]
[ 第6巻 シャルトル大聖堂(ゴシック) ]
[ 第7巻 サン・ロレンツォ聖堂 15世紀 ]
[ 第8巻 パラッツォ・デル・テ 16世紀 ]
[ 第9巻 サン・カルロ・アッレ・クァトロ・フォンターネ聖堂 17世紀 ]
[ 第10巻 ショーの製塩工場 18世紀 ]
[ 第11巻 サー・ジョン・ソーン美術館(19世紀) ]
[ 第12巻 クライスラー・ビル 20世紀 ]

磯崎 新【著】、篠山紀信【写真】
六耀社
ISBN:9784897373942、9784897373935、9784897373973、9784897374024、9784897374000、9784897373966、9784897373997、9784897373959、9784897373980、9784897373928、9784897374017、9784897373911

磯崎新が、パルテノン神殿やシャルトル大聖堂など、西洋建築史から12の重要な作品を選び、篠山紀信が撮影した『建築行脚』シリーズの廉価版。垂直線を厳密に守る、いわゆる建築写真とは違い、艶かしい空間の雰囲気をとらえる手法に驚かされる。『建築談義』では、テキストはすべて入れ替え、筆者が聞き手になって磯崎が語る形式をとった。五十嵐がインタビューを担当し、各巻の作品解説や各時代の建築様式の基本的な概念から、現代建築や美術・サブカルチャーへのレファランスまで、話題は多岐にわたる。

book 建築のパフォーマンス―<つくばセンタービル>論争

磯崎 新【著】
パルコ出版(1985-06出版)
ISBN:9784891941048

ポストモダン建築を代表する、つくばセンタービルをめぐって、多くの建築家と評論家を巻き込み、論争が起きた。磯崎新が自らそこで生みだされた様々な言説に返答しつつ、編者となって整理したのが本書である。こうした構造こそがポストモダン的だった。

建築における「日本的なもの」 建築における「日本的なもの」

磯崎 新【著】
新潮社(2003-04-25出版)
ISBN:9784104587018

日本建築論だが、これぞ日本の美という礼讃ではない。むしろ、建築において「日本的なもの」の概念はいかに成立し、変容し、政治的に利用されたのかを批判的に検証する。そして革命的な動乱が収束し、前の時代とは断絶しつつ、新しい感覚を生みだした特定の時期を扱う。建築そのものよりも、建築をめぐる言説への刺激的な分析である。

空間の行間 空間の行間

磯崎 新、福田和也【著】
筑摩書房(2004-01-20出版)
ISBN:9784480860668

日本・建築・文学をめぐる、すさまじい博識に裏づけられた知的なトーク・バトル。日本建築史は、実証主義的な態度が強く、技術論や様式論に閉じこもり、思想を巻き込む横断的な議論が少ないことを考えると、貴重な試みだといえよう。トピックは多岐にわたるが、二人は、安定に向かう制度化よりも、時代を切断する革新的な態度に興味をもっている。連続よりも断絶。破壊的なエネルギーと力強い創造力に魅せられている。

批評と理論 批評と理論

磯崎 新、鈴木博之、石山修武【監修】
INAX出版(2005-03-20出版)
ISBN:9784872751239

歴史離れは、建築とて例外ではない。現代建築が過去と断絶しているからだ。先日も、1990年代より前の20世紀をすべて近代とみなす感覚を学生が共有していることを知って、驚かされた。こうした状況において、本書は、異分野の研究者を招き、建築の批評と理論を交錯させながら、現代のデザインと過去の歴史をつなぐ意欲的な試みといえる。


●建築家


建築をめざして 建築をめざして

ル・コルビュジエ【著】、吉阪隆正【訳】
鹿島出版会(1989-03出版)
ISBN:9784306050211

近代建築のバイブル。まずは眺めよう。大型客船、プロペラ機、工場や機械の写真、そしてパルテノン神殿と自動車のツーショット。建築以外の素材から、近代のイメージを刷り込む、巧みなエディトリアル。文字に目を通せば、有名な「住宅は住むための機械である」など、キャッチコピーを矢継ぎ早にくりだす。新しい時代を迎え、建築という革命が高らかに宣言される。

負ける建築 負ける建築

隈 研吾【著】
岩波書店(2004-03-25出版)
ISBN:9784000021593

隈は、環境を圧倒する20世紀型の「勝つ建築」ではなく、柔らかい受動的な「負ける建築」のモデルを提唱する。これは社会から疎まれる建築のサバイバルの手法でもある。20世紀は公共投資と持ち家政策がケインズ経済学とデモクラシーと連動しつつ、世界の膨張に対応し、モニュメンタルな巨大建築を生みだしたが、そうしたモデルが失効したという。そして空間を囲い込むのではなく、都市に開くような建築のあり方を模索する。

原っぱと遊園地―建築にとってその場の質とは何か 原っぱと遊園地―建築にとってその場の質とは何か

青木 淳【著】
王国社(2004-10-30出版)
ISBN:9784860730253

各地のルイヴィトンの店鋪など、現代の日本において、もっとも知的なデザインを行う建築家の著作。「遊園地」とはいたれりつくせりで、機能を完全に充足する空間であり、逆に「原っぱ」は余白をもつがゆえに、使い手が主体的に関わっていく。青木は、前者を批判しつつ、後者を肯定し、フォルマリズム的な建築の手法を掲げる。

東京駅の建築家 辰野金吾伝 東京駅の建築家 辰野金吾伝

東 秀紀【著】
講談社(2002-09-05出版)
ISBN:9784062113625

本書は建築家の生涯をたどるが、小説の体裁をとっている。前作『ヒトラーの建築家』の小説形式は、やや違和感を覚えたが、今回は成功している。辰野が高橋是清から英語を学んだ逸話を交えながら、建築の世界を身近に感じさせる。不器用な辰野が国家を背負う建築家に成り上がった経緯は、「プロジェクトX」を連想させるような熱い物語だ。

行動主義―レム・コールハースドキュメント 行動主義―レム・コールハースドキュメント

滝口範子【著】
TOTO出版(2004-03-15出版)
ISBN:9784887062337

スーパースター・アーキテクトという称号にふさわしいレム・コールハース。本書は、彼のアグレッシブな仕事ぶりを追っかけ取材したもの。リムジンで移動しながらのインタビューなど、行間からライブ感があふれる。アメリカ、中国、日本、オランダを飛びまわり、めまぐるしく変更されるスケジュールに対応できるよう、事務所では、いつも飛行機の行き先と時間を複数のパターンで予約している。国際派ビジネスマンも顔負けだ。「コールハースでいることは、ずいぶん大変なことだ」と指摘されたのもうなずける。


●生活


「51C」家族を容れるハコの戦後と現在 「51C」家族を容れるハコの戦後と現在

鈴木成文、上野千鶴子、山本理顕、布野修司、五十嵐太郎、山本喜美恵【著】
平凡社(2004-10-08出版)
ISBN:9784582544275

51Cとは、1951年に計画された公営住宅標準設計C型であり、いわゆる2DKのこと。その後、画一的なnLDKのシステムは不動産や開発業者にも流布し、戦後日本の住宅設計と家族像に大きな影響を与えた。本書は、その成立の経緯と変遷をめぐって、生みの親である建築計画学者と社会学者と建築家が討議したシンポジウムを収録したもの。51CはnLDKの元凶ではなく、両者は不連続であることが確認された。

建築計画 建築計画

長澤 泰【編著】、在塚礼子、西出和彦【著】
市ヶ谷出版社(2005-10-24出版)
ISBN:9784870711457

建築計画の新しい教科書である。この近代的な学問は、合理的なプランニングのモデルを追求してきたが、全国に公共施設が一通りそろい、少子高齢化の社会に突入し、その役割も変わろうとしている。ビルディングタイプの章において、各施設の歴史にも一瞥を与えたのは、相対化も意識しているからだろう。建築学の現在を知るうえで興味深い。

現代住居コンセプション―117のキーワード 現代住居コンセプション―117のキーワード

プロスペクター【監修】
INAX出版(2005-10-15出版)
ISBN:9784872751307

建築書では、おそらく住宅関係のものがもっとも多いだろう。とりわけ、日本では小住宅のジャンルが発達し、すぐれた名作が生まれている。そこで本書は、多様な広がりをもつ住宅の世界を一冊で概観する。3人の建築家が選んだ117のキーワードによって、住宅をめぐる諸問題を考察する。風水、セキュリティ、コスト、構造、セルフ・ビルド、生きられた家、アルミの家、屋上緑化、町屋、最小限住居など、興味のある項目を拾い読みするといいだろう。それぞれには参考文献も紹介されており、次の読書への扉も開く。

団地再生―甦る欧米の集合住宅 団地再生―甦る欧米の集合住宅

松村秀一【著】
彰国社(2001-07-20出版)
ISBN:9784395006816

アメリカやヨーロッパにおける団地再生の実例を調査し、その現状を報告する。日本でも、1950年代以降に非木造の集合住宅が大量に建設され、建て替えの時期を迎えている。だが、欧米とは違い、これまでに日本はそうした経験がない。ゆえに、具体的な手法や運営を紹介し、団地再生のための新しい職能の確立が必要だと説く。右肩上がりのスクラップ・アンド・ビルドの日本社会が終った後に、建築家が生き残るための実践の書。

東京リノベーション―建物を転用する93のストーリー 東京リノベーション―建物を転用する93のストーリー

フリックスタジオ、SSC
廣済堂出版(2001-11出版)
ISBN:9784331508060

スクラップ・アンド・ビルドが減速した日本の建築界では、リノベーションが注目されている。本書は建築ガイドのスタイルで様々な実例を紹介するもの。『メイド・イン・トーキョー』と同様、B級以下の物件に注目するが、リノベーションによって魅力を高め、付加価値を与えようとする。『建築MAP東京』がバブルの遺産台帳だとすれば、本書はポストバブルのサバイバル・ブックといえる。

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