内容説明
“家を建てる”が口癖だった父は、理想の家族を夢みて、払える金もないのに、いきなり立派な家を建てた。しかし成人した娘たちも、16年前に家を出た妻も、その家に寄りつかない。そこで父はホームレス一家を家に招き、ニセモノ家族と一緒に暮らし始めるのだが……不気味な味わいの表題作は、泉鏡花文学賞を受賞。ほかに、不倫する女が体験する、不倫相手の妻の奇矯なふるまいを通して、家族の不在をコミカルにえがく「もやし」を収録。才気あふれる2短篇。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
350
中篇小説を2篇収録。いずれも芥川賞候補になったもの。柳美里は、この後の『家族シネマ』で芥川賞を取るので、それに先立つ初期作品。『家族シネマ』でもそうだったが、ここでも家族の崩壊がテーマである。彼女の作品はまだ2作目なので、その後はわからないが、少なくても初期に繰り返し問い返されたのが、このテーマだったようだ。2作ともに日常の光景が描かれてはいるのだが、シュールなというに近い断層がそこにはあって、それが彼女の小説の大きな魅力となっている。どこで掛け違えてしまったのだろう。世間から見放された孤独が漂う。2014/09/21
メタボン
37
☆☆☆☆ なかなか読んだことのない作風。シュールな点では吉田知子に近い感じがする。「もやし」不倫相手の妻の狂気がすごいことになっている。妻とのかみあわないやり取りが怖くもあり笑える。この狂気の描き方はすごい。「フルハウス」新築の家に住み着いてしまうホームレス一家にむしろ家族の現出を見るのであって、家主である父の家族はもともと崩壊しており、娘たちを家族としてつなぎとめようと試みる父の思惑は破綻している。泉鏡花文学賞に果たしてふさわしいかどうかは微妙だが、その受賞がなければ私にとっては出会わなかった作品。2019/10/29
sakai
32
家族がバラバラなのに家を買った父。その家に住み着くホームレス一家。なんだろう、この感覚デジャビュ…と思っていたら解説が山本直樹で全てが繋がった。「ありがとう」のあの違和感に似てるのか。だから気持ち悪さのなかに謎の心地よさを感じたのか。納得。この日本語が全く通じない人々との交流が気がつくとクセになっている。2018/10/02
James Hayashi
28
表題作で野間文芸新人賞、泉鏡花文学賞受賞作と、やはり芥川賞にノミネートされた「もやし」を掲載。どちらも荒々しい力強い作品。昔の言い方で言えば「飛んでいる、ぶっ飛んでいる」。文学的どうのこうのはわからないが、訴えかけ圧倒する作風。2019/10/04
との
23
母に勧められて、kindleにて。初読みでしたが、なんとなく背中をなにかが這い上がってくるような気持ち悪さがありました。読んでいて不安。2019/07/12