内容説明
自殺者がのこした音楽テープは遺言なのか、それとも怨念なのか。曲を聴いた児童はひきつけを起こし、押入れのチェロはひとりでに弦をはじく。送り主は松本の旧家で作曲をたしなみ、同人誌を発行する「高等遊民」。気味の悪さにテープはうち捨てられるが、音楽だけ別のテープへと乗り移る。死者の真意をさぐるために音楽教師の瑞穂は奔走、その途上、彼女自身が封印してきた過去があばかれることに……。『女たちのジハード』で直木賞受賞の著者による異色ホラー長篇。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
340
康臣がヴァイオリンで高声部の主旋律を奏でるとすれば、チェロの瑞穂は低声部を支えながら、時にはヴァイオリンを追いかけてもゆく。音楽においては凡人の域を出ない正寛は、真っ向からは主題に入ってはゆけない。この3人にさらにナスターシャ等複数の人物が絡み合っていく構成をとるが、主要な登場人物が多く、それぞれが個性的であるために、逆に主題の収斂度がやや弱くなってしまったようだ。もっとも、最後はバッハの音楽の厳格な構成原理のように、物語は円環を結ぶのではあるが。音楽と山―篠田節子さんの得意の分野を生かした作品だ。2018/03/09
gonta19
118
新規購入ではなく、積読状態のもの。恐らく1999年4月に購入。 2019/1/9〜1/13 積みも積んだり19年ものの積読本。音楽や芸術に打ち込む、というのは残酷なことだなぁ。購入した当時は趣味ではなかった登山関係の描写もあり、積んで良かったのかもしれない。奥穂高は行ったことがあるが、あの稜線で雷に遭うなんて、想像もしたくない。2018/01/13
えみ
62
その旋律は何を訴えているのか。何を想って奏でていたのか。自殺した康臣が死にゆくその瞬間まで弾いていたのはバッハのカノンだった。たしかに彼と恋人だったと言えるほんの一瞬、だけど脳に焼き付けるほどの強烈な共鳴を、青春の影として心の奥底へ仕舞い込み20年を過ごしてきた小学校の音楽教師・瑞穂。彼の訃報は忘れていた感情、思い出、そしてあの時置いて来てしまった大切なものを蘇らせる。カセットテープに残された音に込められていたのは呪いなのか?手放しても戻ってくる音源、姿を現す康臣、狂いだす人々…怪異の連続に背筋も凍る。2021/05/23
s-kozy
62
40歳を前にして「私の人生これでよかったのかしら?」と気づいてしまった女性の物語。20年前のある一時期を明(かなりの混乱もあるが)、それ以降の職業人・家庭人としての人生を喑としてえがいていることに違和感が強く感じられ、スッキリと読み進めることができなかった。人生ってくっきりと区分けできるものではなく、もっと事柄と事柄に連続性があるものじゃないのかな?2013/07/01
巨峰
34
骨太な音楽小説。伝わる人、伝わらない人。この人なら理解してくれると思うこと。彼が彼女に託したバトンは、愛と比しても変わらない大きさなのだ。2011/09/18
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