内容説明
他国の文化・規範に接しそれを内面化しうる「国際理解能力」と、自国の伝統的規範を尊重しそれに立脚した「日本人性の確立」―この二つの目標の間に当然生じうる葛藤・衝突を無視した現在の一般的風潮の下では、多文化共生も異文化理解も、実効を欠いた理念的・規範的言説にとどまるだろう。諸文化間に侵し難い本質的差異を想定し、結局日本人性固守に帰着する「文化本質主義」を超えて、新たな異文化間架橋の途を具体的に追求した力作。
目次
第1部 多文化主義の葛藤(多文化主義とその課題;多文化主義へのまなざし―オーストラリア多文化主義とその歩み;多文化主義のリアリティ―多文化教育の行方)
第2部 異文化理解の陥穽(英語教育にみられる文化の捉え方;日本人論の問題;異文化理解と文化本質主義)
第3部 本質主義からの解放(「文化本質主義」脱却への模索―職場での試み;「異文化間教育」の捉え直し―学会における試み;文化の捉え方をめぐって―活路はあるのか?)
著者等紹介
馬渕仁[マブチヒトシ]
1955年生まれ。モナシュ大学大学院教育学部博士課程修了、Ph.D.(国際教育)。大学在学中にタイに留学。中学・高校の教員を勤めた後、渡豪し、ビクトリア州教育省のコーディネーターとして多文化教育に関わる。現在、大阪女学院大学大学院教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
livre_film2020
33
「異文化理解とか多文化共生とか、なんか良さげやん?」って思考停止するなよという著者のメッセージをしかと受け取った。「マイノリティは寛容なんて言葉は使わない。彼らは忍耐という言葉を使う」という言説にはハッとさせられた。1970年代に勃興した異文化コミュニケーション学がなぜ今も同じ問題を提起し続けるのか。そこには文化本質主義があるのでは?と著者は鋭く切り込む。その上で両義性とマージナル性が今後この分野が発展するために重要になると主張。なぜなら、本質主義や構築主義という二項対立では、物事は最早進展しないからだ。2023/02/12
planp
2
図書館にて。日本人像への言及が印象的。2010/08/05