内容説明
政治不信と無関心の増大に対し、通常期待される市民の政治参加と共に、「非行動」即ち「観客」として政治の「劇場」を観察し、思考力と判断力を鍛える営みを高く評価したように、アーレントの政治思想は重層的なのだ。我々が現在陥っているのが、直線的な行動を無効にする不気味で朦朧としたシステムだとすれば、それは極めて貴重である。観察の思想を基点に、革命と自由、罪と許し、公共性、自然と科学等、アーレントの思想の本質を多角的に追求した力作。
目次
序章 聴衆民主主義を超えて
第1章 観察者としてのアーレント
第2章 徹底的な民主主義の種火―建国と自由の狭間で
第3章 死と昏睡の後に―古代・中世・近世を貫く公共性の変容
第4章 劇場の政治とその含意
第5章 許し
第6章 人と自然―アーレントの科学技術批判
著者等紹介
小山花子[コヤマハナコ]
1974年東京生まれ。青山学院大学国際政治経済学部、一橋大学大学院社会学研究科で学んだ後、ハンナ・アーレントがかつて教壇に立っていたニューヨークのニュースクール・フォア・ソーシャル・リサーチに留学、アーレントの行為論についての論文で政治学の博士号を取得。この間、アメリカの批判理論や、民主主義理論についての研究にも従事する。現在、盛岡大学文学部准教授。専攻は、政治思想、哲学。政治思想学会、日本哲学会、アメリカ政治学会、日本社会学会所属(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
うえ
7
「近代の科学技術は、<工作人>とは一線を画するあり方を指し示す。それは、自然の中へと自己を挿入する、脱人間的なあり方である。我々は、近代技術が人間中心的で、自然をどこまでも搾取し利用しつくそうとエゴイスティック…と考えるかもしれない。しかし、アーレントの見方では、それは人間中心的でも世界中心的でもなく、むしろ自然中心的、宇宙中心的…。というのはそこにおいて、人がむしろ自然化されているからである。アーレントによれば、今日の「真に宇宙的な科学」は、「あえて自然を破壊し…自然の中に宇宙過程を引き入れている」。」2022/08/01