内容説明
不妊に悩む夫婦にとって「福音」といわれる生殖補助医療、代理出産。しかし、代理母の精神的・肉体的負担、貧困層のブリーダー階級化、親子関係の定義づけの難しさなど、現実はシビアな問題が山積みだ。日本でも法整備を進める動きがあるが、代理出産をめぐる議論はまだまだ不十分。このテーマを長年、追いかけてきた著者が複雑な代理出産の問題の核心に迫る。
目次
プロローグ 「代理出産」問題とは何か
第1章 混乱をきわめた人工授精型の時代
第2章 体外受精型代理出産の幕開け
第3章 代理母が引き受ける大きすぎる代償
第4章 代理出産で生まれた子どもたちの葛藤
第5章 各国の代理出産事情
第6章 生命操作はどこまで許されるのか
エピローグ―マーケル家からの伝言
著者等紹介
大野和基[オオノカズモト]
1955年、兵庫県生まれ。東京外国語大学英米学科卒業。1979年に渡米し、コーネル大学で化学を、ニューヨーク医科大学で基礎医学を学ぶ。その後、現地でジャーナリストとしての活動を開始、医療問題から経済まで幅広い分野の取材・執筆を行う。1997年に帰国した後も頻繁に取材のため渡米。米国の最新事情に精通している(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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カイエ
7
ネットで50代夫婦が代理出産で子どもを得たという記事を見て。少し古い本だが代理出産の抱える問題点がだいたいわかる。日本では今のところ原則禁止とされているが、同性カップル、不妊治療、少子化対策、ネオリベ、共感社会と、代理出産が肯定されそうなルートはいくらでもある。女性の身体と新たな命が貧困ビジネスの対象にならぬよう、熟慮すべき問題だと思う。2024/11/02
むぎ
5
とにかく日本は代理母に関する法整備が遅れていることと、その法律を考えるのはめちゃくちゃ難しいということがよくわかりました。日本で代理出産は禁止されているものだと思っていましたが、ちゃんとした法律はなくとある団体がダメって言ってるだけなんですね……。そこはしっかり国が決めなければいけないと感じました。代理出産に賛成が反対かと問われたらすぐに答えは出せないのですが、認められるなら、代理母と依頼者カップル双方を守る厳格な統制のとれた骨組みをつくられているのかはチェックしなければいけないなと感じました。2022/10/09
駒場
4
本書でも多く問題点が指摘されているが、特に大きいと思われる点は①出産時・出産後の妊婦に対するケアがないがしろにされ、場合によっては命の危険がある、②生まれてきた子を受け取り拒否する・引き渡し拒否する可能性がある③そもそも生まれてくる子には(出産すべてにいえることだが)選択肢がない、④経済的弱者の搾取につながる可能性がある。子供がほしいなら、なぜ養子ではダメか?「血の繋がった子供」に対する生物的な本能、あるいは信仰に近い出生主義的な何かが根底にあるように感じられ、正直グロテスクさを感じた2021/03/18
maho
2
生命倫理や命の尊厳を突き詰めていくことが、私の人生の課題。。その内の1つ、「代理出産」。依頼夫婦の現状や代理母の身体的リスクは理解していたが、代理母が受ける社会的ストレスを初めてより詳しく知ることが出来た。代理出産は、賛成・反対と、白黒つけられるものではない。あくまで個別審議を丁寧にしていくしかないと思う。しかし、以下については明確に反対したい。命をビジネスにしてはいけない。アジアに「ブリーダー階級」を作ってはいけない。女性の子宮をモノとしてしか見えなくしてしまうから。2013/12/02
那由田 忠
2
排卵誘発剤を打つ依頼母と周期をあわせるための黄体ホルモン注射など代理母の大変さ、代理母の心理的な辛さ、兄弟や夫の気持、引き取り拒否を防ぐ法的整備の必要性、そして出産時の生命の危険。アメリカの生殖ビジネスの歴史を含めて、様々な側面をていねいに具体的ケースに沿って述べられている。また、根津医師の主張を正確に紹介もしている点で、この問題に関心を持つ人が必ず読むべき本だと思う。2013/08/09