出版社内容情報
ディケンズ(1812-1870)は、およそ1年間、ジェノヴァを拠点に、ヴェネツィア、ピサ、ローマなど、イタリア各地を見て回った。ディケンズ独特の観察眼が発揮された臨場感あふれる紀行文。1846年刊。本邦初訳。
内容説明
1844年7月、32歳のディケンズは、家族とともにイタリアに向けて出発した。ジェノヴァを拠点に、およそ1年にわたって、ヴェネツィア、ピサ、ローマ、ナポリなど各地を見て回った。本書はディケンズ独特の観察眼が発揮された臨場感あふれる紀行文となっており、随所に滲み出ているカトリック批判はとりわけ印象深い。本邦初訳。
目次
読者のパスポート
フランスを経由して
リヨン、ローヌ川、およびアヴィニヨンの“鬼婆”
アヴィニヨンからジェノヴァまで
ジェノヴァとその周辺
パルマ、モデナ、そしてボローニャへ
ボローニャとフェッラーラを通過
イタリア幻想
ヴェローナ、マントヴァ、そしてミラノを経由し、シンプロン峠を越え、スイスへ
ピサとシエナを経由してローマへ
ローマ
走馬灯
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
のっち♬
110
1844年から翌年にかけてのイタリア滞在の紀行文。到着早々「汚らしい」と言い出す著者、一旦こうなったら容易に覆らないのは米国と同様。風俗、芸術、自然、建築、人物など新奇なものに触れたあらゆる印象が生き生きと描かれている。良いものは良い、不快なものは不快、分からないものは分からない、カトリックもバチカンもベルニーニも容赦なくぶった斬る。本来慈悲深い宗教が形骸化した実態への憤怒は小説以上に明確。拷問部屋や地下牢で豊かな想像力を働かせるくだりは戦慄モノ。どこまでも率直な物言いとユーモアは随所で肩の力を抜かせる。2021/11/06
優希
40
1844年から1年間のイタリア滞在の紀行文になります。独特の観察眼で語られる風景からは臨場感が感じられます、随所に見られるカトリック批判が印象深いですね。何処までも率直に語りつつ、時折ユーモアを見せるのが興味深かったです。2025/01/12
壱萬参仟縁
10
1846年初出。「走馬灯」で、イタリアにとって富くじは現代日本のパチンコ屋のような感じを受けた。富くじは政府に莫大な収入をもたらし、貧困層にも賭博への好みを普及させたという(342頁)。日本では外れたら宝くじ号とかいうマイクロバスに化けていくが・・・。訳注も充実。ディケンズの観察眼、想像力からくる洞察力の高さ(解説428頁)。評者はキリスト教については朝5時台のTBSラジオの「心に愛がなければ相手のこころに響かない」という一節を引用する番組ぐらいしか理解できないが、再読するとき宗教への関心を高めておこう。2013/03/14
ラウリスタ~
7
同じイギリスだけあって間違いなく次の世紀に書かれることになる「イングランド紀行」「スコットランド紀行」に影響を与えている。現代の視点から読んでも純粋に面白い。イタリアという本来的に魅力的な土地の旅行記なのだから失敗することなどまずないだろうが、ディケンズが書いたということで彼にしか書けない「小説」に仕上がっている。ディケンズの文体の軽妙さと絶妙のエスプリを存分に満喫できる。どこまでが現実でどこからがディケンズの誇張、妄想なのかがあいまいな世界が繰り広げられている。イギリスの匂いが漂うイタリア紀行。2010/12/30
あくび虫
4
時をおいて、何度か読み返すべき本です。一度きりではきちんと受け止め切れません(もちろん人によるでしょう)。一文一文がかなり長く、どこまでがそうか分からない比喩があり、知識による前提を要求してきます。さいごに関しては、すぎるくらいに親切な注釈がついているのであまり気にする必要はありませんが。――とはいえ、ずっしりと濃密な本であることに間違いはありません。すっと入ってこないのに好意が持てる段階で驚嘆です。不思議と惹きつけられるものがあります。文句なしに良本です。2016/09/29