内容説明
記憶の庭から甦る、あの音。鍵盤の感触。どこでピアノのことを忘れてしまったのだろう?愛情溢れるパリの職人に導かれ、音楽の歓びを取り戻した著者が贈る、切なくも心温まる傑作ノンフィクション。
目次
リュック
自分のピアノに巡り合う
シュティングルがやってくる
マダム・ガイヤール
ぴったり収まるもの
ミス・ペンバートン
ジョス
仕組み
鍵盤のふた
世界が騒がしくなる〔ほか〕
著者等紹介
カーハート,T.E.[カーハート,T.E.][Carhart,Thad E.]
アイルランドとアメリカ、二つの国籍を保有。幼少時をフランス国内やワシントン、東京などで過ごす。イエール大、スタンフォード大学で学んだのち、カリフォルニアでメディアコンサルタントとして活躍。その後ヨーロッパに渡り、大手コンピュータ会社に勤務するが、50歳を機にフリーライター/ジャーナリストに転身した。現在は妻、二人の子供とともにパリに住み、執筆活動を続けている
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感想・レビュー
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こーた
222
僕は自らの過去を振り返って、こんなふうに生きればよかった、などという後悔はほとんどしない性質だが、ただひとつ音楽にだけはもっと親しんでおけばよかった、と想うことがある。楽器がすぐそばにある生活。それは憧れの対象であり、なぜか懐かしくもある。特にピアノは善い。それは楽器であると同時に家具でもあり、またよくできた工芸品で、職人が技の粋を尽くした精密機械だ。どのピアノを買い、部屋のどこに置いて、何を弾こうか。修理や調律は?柔らかなピアノの旋律が誘う、憧憬と郷愁に彩られたパリ左岸の生活が羨ましくも心地いい。2020/09/08
遥かなる想い
160
著者のピアノへの想い満載のノンフィクションである。パリの裏町のピアノ工房の 物語…まるで フランス映画を見るかのような ひどく映像的な文化の雰囲気が 心地良い。 ピアノの奥深い世界への 慎重な誘い …パリの職人の世界を 丹念に描いている、そんな作品だった。2019/07/13
ヴェネツィア
151
セーヌ左岸、カルチエ・ラタンのあたりにひっそりと存在するピアノ工房。オーナーのリュックと、そこに集う人々。そして何種類ものピアノ。この小説の全体はフィクションなのだろうか、あるいは限りなく筆者の体験に忠実に描かれているのだろうか。いずれであれ、この小説にはパリに固有の空気とノスタルジーが横溢する。「蜂蜜みたいな音のする」プレイエル、「鍵盤に息を吹きかけても音の出る」エラール、ベートーヴェンの弾いたかも知れないヨハン・ゴッティング、そして著者の愛器ヴィーン製のシュティングル。ため息の漏れるような物語だった。2013/03/27
コットン
88
再購入しての再読。今回あらためて気づいたのは全体を貫く音楽愛。スタインウェイの職工長が再調整のため古い解体されたピアノが運ばれたとき「これが泣かずにいられるかい?」と。:その内側に別のスタインウェイの職人の名前が見つかったのだが、それが彼のいまは亡き父親のサインだったというのである。2022/08/21
夜長月🌙@5/19文学フリマQ37
83
これまでの人生、ピアノとは無縁に暮らしていたのですが「蜜蜂と遠雷」でピアノを聴き、「羊と鋼の森」で専門的なことも知りました。そして「パリ左岸のピアノ工房」でピアノに取り込まれました。主人公が20年ピアノレッスンから離れ大人のピアノ教室からやり直すというプロフェッショナルでない目線が深い共感を読んだのだと思います。ピアノ工房に集う人々の関係性と雰囲気もとても魅力的です。ピアノのブランドから教育法まですべてが相まってピアノ讃歌となっています。2021/07/19