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白水社×みすず書房×東京大学出版会「レビュー合戦 2016」開催! レビューの一部をご紹介

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2012年、白水社みすず書房東京大学出版会が企画し、大好評を博したブックフェア「レビュー合戦」。そのフェアが4年ぶりに復活します!
11のテーマに沿った本をピックアップ。そして、それらの本について、編集者を中心とした3社の担当者が互いに熱く論じています。
店頭では、レビューを掲載した小冊子も配布中。ぜひフェア開催店にいらしてください。

※別記事で、2012年に開催された第1回「レビュー合戦」の全レビューを公開しています。
2012年の白水社×みすず書房×東京大学出版会「レビュー合戦」フェア 全レビュー公開!

~ブックフェア「レビュー合戦 2016」開催店舗~

紀伊國屋書店
北海道/札幌本店 開催中~10月31日(月)
千葉県/流山おおたかの森店 開催中~10月31日(月)
埼玉県/さいたま新都心店 9月12日(月)~10月中旬
東京都/新宿本店 9月中旬~10月中旬
神奈川県/横浜店 9月7日(水)~10月2日(日)
大阪府/梅田本店 開催中~9月30日(金)

ACADEMIAイーアスつくば店/ACADEMIA港北店/MARUZEN&ジュンク堂書店渋谷店/MARUZEN広島店/MARUZEN松本店/MARUZEN名古屋本店/オリオン書房ルミネ立川店/くまざわ書店ランドマーク店/くまざわ書店相模大野店/くまざわ書店武蔵小金井北口店/ジュンク堂書店京都店/ジュンク堂書店三宮店/ジュンク堂書店松山店/ジュンク堂書店盛岡店/ジュンク堂書店大阪本店/ジュンク堂書店池袋本店/ジュンク堂書店那覇店/ジュンク堂書店難波店/ジュンク堂書店名古屋店/タロー書房/ブックスミスミオプシア店/ブックスルーエ/ブックファーストレミィ五反田店/ブックファースト新宿店/ブックマンズアカデミー前橋店/丸善丸の内本店/丸善四日市店/丸善仙台アエル店/丸善博多店/岩波ブックセンター信山社/喜久屋書店倉敷店/宮脇書店本店/戸田書店静岡本店/今井書店グループセンター店/三省堂書店神保町本店/青山ブックセンター六本木店/大垣書店イオンモールKYOTO店/中央大学生協多摩店/長崎書店/東京大学生協駒場書籍部/東京大学生協本郷書籍部/同志社生協書籍部今出川店/函館蔦屋書店/明正堂アトレ上野店(五十音順)

※開催期間や休業日・営業時間は各店舗へお問い合わせください。


「レビュー合戦」(2016) レビュー

レビューの一部をご紹介いたします。(全レビューは店頭配布の小冊子に掲載されています)



Theme 1 歴史の転換点

明治大正史 上

明治大正史 上

中村隆英、原朗 / 東京大学出版会
2015/09出版
ISBN : 9784130230698
価格:¥3,300(本体¥3,000)

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〈上〉
激動の日本近代史を、名著『昭和史』の著者が政治、経済、思想、文化など複合的な視点からバランスよく俯瞰した名講義を再現。

明治大正史 下

明治大正史 下

中村隆英、原朗 / 東京大学出版会
2015/09出版
ISBN : 9784130230704
価格:¥3,300(本体¥3,000)

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〈下〉
激動の日本近代史を、名著『昭和史』の著者が政治、経済、思想、文化など複合的な視点からバランスよく俯瞰した名講義を再現。

中村隆英『明治大正史』(東京大学出版会)
 東京大学出版会から上下二巻の明治大正史が出るというので、ここ数年維新史を意識的に読んでいた自分は、とりあえずこれを購入した。定価以外の情報をろくに確認しなかったのは版元への信頼ゆえだが、悪い先入観もあって、「歴史の声が聞こえる名講義」(帯)といっても東大出版会の本である。堅い本だろうと思った。これは読み始めて早々に裏切られる。とにかく読みやすく、面白い。史学者ではない書き手ならではの自由闊達さがあり、描かれる出来事の相関や人物像が印象的だ。著者専門の経済は勿論のこと、政治、文学や芸術にわたる深い知識を、柔らかい口語調で自在に操る。ユニークな初歩的概史としても読めるが、すでに種々の歴史書を読んできた読者のほうが、本書の真価を理解し楽しめるのかもしれない。語りの細部にも引き込まれる。治安維持法とバーターで普通選挙法を成立させた若槻礼次郎と平沼騏一郎に関する短い記述など、軽妙なだけにその後の悲惨を考えると余韻を引いたし、外債で日露戦争の戦費を調達した高橋是清を「借金をして子爵になったのは高橋だけです」と評したくだりには、思わず笑った。3年前に逝去された著者が1993年に大佛次郎賞を受賞した『昭和史』に馴染まれた方も多いかもしれない。私を含め未読の向きには、時間軸に沿って読めるという特権がある。本書のあとはぜひ、『昭和史』へと読み進めたい。

(みすず書房 中川美佐子・評)


台湾海峡一九四九

台湾海峡一九四九

龍 應台【著】/天野 健太郎【訳】
白水社
2012/07発売
ISBN : 9784560082164
価格:¥3,024(本体¥2,800)

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人びとが下したささやかな決断と、それがもたらした壮絶な流浪の軌跡。台湾随一のベストセラー作家が満を持して放つ歴史ノンフィクション。

龍應台『台湾海峡一九四九』(白水社)
 「切ない」という言葉に、どこまでの深さと重みが込められているのかわからないが、本書を読み進めていくとき、心の中に動き続ける感情はありったけの「切なさ」、まさに胸を締めつけられる思いだ。頁をめくるたびに一体どれだけの人が死んだであろう。1945年までの抗日戦争でも多くの犠牲者を出し、一瞬の歓喜を感じただけで国民党軍と共産党軍による国共内戦が始まり、同胞同士が激しい戦闘を繰り広げる。ある人は志願し、ある人は突然さらわれて兵士に仕立て上げられ前線に送られる。生徒・学生は疎開のため長い流浪を強いられる。戦場では「殲滅」戦が行われ、街を徹底的に包囲して大量の餓死者がうまれる。流浪の過程では事故死や体力が尽きての悔しい死が待っている。そして、それらの周りには、夥しい数の別れがある。親との、家族との、恋人との、そして故郷との。
 想像を絶する苦難を乗り越えて生き残った人たちの膨大な証言で成り立つ本書は、激動の世界史の一面を深く語っただけでなく、人間の存在そのものへの認識を大きく揺さぶる。「訳者あとがき」でも指摘されているように「単純なジャンルに収まりきれない豊かな作品」であり、まさに「文学」として読まれるべきものだ。現代に生きるわれわれは、ここに書かれたものから徹底的に想像力を働かせ、過酷な歴史に放り込まれた個々の人びとの痛みや苦しさ、悔しさに寄り添う必要があるだろう。

(東京大学出版会 黒田拓也・評)


ノモンハン1939 第二次世界大戦の知られざる始点

ノモンハン1939 第二次世界大戦の知られざる始点

スチュア-ト・D.ゴ-ルドマン、山岡由美 / みすず書房
2013/12出版
ISBN : 9784622078135
価格:¥4,180(本体¥3,800)

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第二次大戦直前に日ソが戦火を交えたノモンハン事件は単なる極東の一紛争ではない。近年高まる国際的注目の嚆矢である本の日本語版。

スチュアート・D・ゴールドマン『ノモンハン1939』(みすず書房)
 1939年5月、満洲とモンゴル国境をめぐる日本軍とソ連軍の戦闘は、「ノモンハン事件」(ハルハ河の戦い)として知られる。本書は「ノモンハン」を、一地域で起きた「事件」という枠には収まらない、国際情勢に多大な影響を及ぼした戦闘と位置づけている。『第二次世界大戦1939−45』(白水社)で、アントニー・ビーヴァーも指摘しているように、この戦闘は「地政学的分岐点」として決定的な役割を果たすのだ。
 戦闘の期間中に「独ソ不可侵条約」が結ばれ、ポーランド国境にドイツ軍が集結し、欧州における大戦が始まった。8月、日本軍は近代史上、最悪の軍事的敗北を喫するが、ソ連軍の被害も甚大だった。そこでスターリンは情勢に鑑み、日本側の停戦要請を受け入れる方が得策だと判断した。一方、日本では対ソ主戦論の「北進」派が後退、海軍主導の「南進」派が勢いを増し、やがて東南アジアにおける欧州の植民地を襲い、さらには真珠湾で米国との決戦に至るのだ......。
 「ノモンハン」が欧州戦線と太平洋戦争の「導火線」となった背景として、日本の「過去の遺産」をさかのぼり、「世界の状況」にも一章を割いて論じているので、理解がいっそう深まる。また、日中戦争に関連した蒋介石の戦略、その後の太平洋戦争で繰り返される日本の過ちの萌芽に言及した、巻末「解題」にも学ぶところが大きい。

(白水社 藤波 健・評)



Theme 2 亜細亜へのまなざし

福沢諭吉と朝鮮問題 「朝鮮改造論」の展開と蹉跌

福沢諭吉と朝鮮問題 「朝鮮改造論」の展開と蹉跌

月脚達彦 / 東京大学出版会
2014/08出版
ISBN : 9784130210782
価格:¥4,180(本体¥3,800)

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日清戦争以前の東アジア―「大国」の中国、朝鮮、そして日本。西洋列強の力が強まるなか、朝鮮を「文明化」、「独立」させることを唱えた福沢の「朝鮮改造論」。福沢と朝鮮開化派の関係から見えてくるものは?今日まで続く日本と朝鮮の認識をめぐる問題の根源とは?福沢の東アジア関係論に対して、朝鮮近代史の文脈から迫る力作。

月脚達彦『福沢諭吉と朝鮮問題』(東京大学出版会)
 東アジア情勢が緊迫化している。「大国」となった中国の海洋進出がその大きな背景にある。東アジアは日清戦争(1894−1895)以前の勢力布置に戻ったと指摘されることも多くなった。尖閣諸島の国有化と苛烈な反日デモ、韓国大統領の竹島上陸といった出来事の中で構想された本書はこうした情勢を正面から受け止めている。そこで本書が検討の俎上に載せるのは福沢諭吉の「脱亜論」(1885年3月16日付時事新報)である。
 「我国は隣国の開明を待て共に亜細亜を興すの猶予ある可らず、寧ろ其伍を脱して西洋の文明国と進退を共にし、其支那朝鮮に接するの法も隣国なるが故にとて特別の会釈に及ばず、正に西洋人が之に接するの風に従て処分す可きのみ」
 アジア蔑視・侵略論の典型として言及されるこの「脱亜論」は、坂野潤治氏によって、そうした見方が見当違いであることが示された。物心両面から支援を惜しまなかった朝鮮の改革派のクーデタが袁世凱率いる清の介入で破綻したことによる「自身によるシナリオの幕引き宣言」だったというわけだ(「福沢思想の現代的意義」『転換期の政治思想』創文社)。初めて「脱亜論」の背景を知ったとき、「大国」清の軍事力、福沢の「露悪的」表現にリアルな感覚を持てなかったが、現今の情勢はそれを一変させた。厳しい状況が生んだ本書は、新解釈という次元を超えて、福沢、そして近代日本の蹉跌の苦々しさを痛々しく伝える。

(白水社 竹園公一朗・評)


アジア再興 帝国主義に挑んだ志士たち

アジア再興 帝国主義に挑んだ志士たち

パンカジ・ミシュラ、園部哲 / 白水社
2014/11出版
ISBN : 9784560083956
価格:¥3,740(本体¥3,400)

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近代化に直面した知識人たちの情熱と苦悩。現代の中国、インド、イスラーム世界をかたち作る源泉となった知識人・活動家たちの足跡を追い、大きな歴史地図の中に今の国際情勢を位置づける意欲作!

パンカジ・ミシュラ『アジア再興』(白水社)
 予想に反した読後感が残った。なにせこのタイトルにこの帯の煽り文句(アフガーニーが煽る/梁啓超が跳ぶ/タゴールが唸る)である。「アジア再興」をめざし「帝国主義に挑んだ志士たち」の活躍を描いたノンフィクションであろうという先入観を持ったことは責められまい。その先入観が的外れではなかったにもかかわらず、読後にぬぐいきれず残ったものがなしさ、それが「予想に反した」のである。帯にも名前の挙がる主人公たちは世界を飛び回り、それぞれの祖国を背に負って、西洋の〈帝国主義〉に抗した。しかし一方で、実は彼ら自身も、滅び行く〈帝国〉の申し子だったのではないか。
 本書の原題は、From the Ruins of Empire。帝国の廃墟から立ちあがった彼らの活動を重ね合わせて浮かぶ輪郭を「汎アジア主義」と呼び、西洋の帝国主義に抗した「アジア再興」の運動と評価することはできようが、まずその前段として、彼らの活動は既にきしみつつあった彼らの帝国の崩壊をも視野に入れた、秩序再編の試みであったことに思いをいたすべきであろう。でなければ彼らの活動が祖国を変革し、再強化しようとするところから始まることがわかりにくいからである。
 時代の節目を捉えようとするときには、新たに興ったものよりも失われてしまったものに目をやってはじめて見えてくるものがある。崩壊する帝国と勃興する帝国の狭間を駆けた本書の主人公たちの意図は、時代を経て後のアジアのナショナリズム勃興を導く形で芽を出した。そこに一抹のものがなしさが残る。彼らが意図して/意図せずして導いた歴史の変革の経緯を、この重厚な本を手にとってぜひ追体験していただきたい。

(東京大学出版会 中野弘喜・評)



Theme 5 ひらめきを得るために

教養としての認知科学

教養としての認知科学

鈴木宏昭 / 東京大学出版会
2016/01出版
ISBN : 9784130121101
価格:¥2,970(本体¥2,700)

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作りだされる記憶、思考のクセ...もろく、はかないがゆえに、周囲の情報を取り入れ、リソースに働きかけ、みごとに環境に応答する認知科学が描き出す、知られざる"知性"の姿。

鈴木宏昭『教養としての認知科学』(東京大学出版会)
 「これが教養です」と差し出されたものは中身も見ずにご勘弁願いたくなってしまう性分なのですが、この本は外面と中身が違うような......タイトルの雰囲気でもちょっと損をしている本のような気がします。だから、私が独断と偏見でお勧めしたいのは、まず「はじめに」をざっと立ち読みすること。著者が描こうとしているのは、「教養」という言葉からイメージするような、確立した、静的な体系ではなくて、ダイナミックに変わりつつある認知科学という巨大なフィールドの最新の風景なんだとわかります。
 そこでちょっとワクワクを感じた人には、p. 17に飛んで(失敬ですがお許しください)、さらに2章以降に出てくる面白い研究事例を立ち読みしてみることをお勧めしたいです。将棋棋士の羽生善治さんのチャンキング能力や5歳の自閉症児ナディアの画力に感嘆し、「4枚カード問題」をやってみてまんまと間違えてしまう自分にヘコんだり、「人間が論理学にしたがわないわけ」に溜飲を下げたり。気になる部分だけ微視的につまみ食いしながら全体をめくっているうちに、この本が何をやろうとしているのかが見えてきます。
 そのとき、読み飛ばしたエピソードや、その背景にある認知科学的なメカニズムをもっともっと知りたいと感じた人は、本書をじっくり読むことで想像以上にたくさんの発見があるのでは。著者の誠意が溢れ出た結果、ものすごい情報量の本になっています。

(みすず書房 市原加奈子・評)


習得への情熱 チェスから武術へ

習得への情熱 チェスから武術へ

ジョッシュ・ウェイツキン、吉田俊太郎 / みすず書房
2015/08出版
ISBN : 9784622079224
価格:¥3,300(本体¥3,000)

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「インスピレーションを得るための公式や型紙は存在しない。だけど、それを得る自分なりの方法を発見するために辿るべきプロセスならある。」ハイレベルの競技者たちが心理的に取り組んでいる課題とは?チェスと武術に通底する高度な習得プロセスから見えてきた、自己最高のパフォーマンスを引き出す学習術。

ジョッシュ・ウェイツキン『習得への情熱―チェスから武術へ―』(みすず書房)
 飛んでくる弾すらも静止して見え、相手の次の一挙手一投足が手に取るようにわかる――SF映画『マトリックス』で、主人公ネオが覚醒したシーンである。
 本書を読んでいて、何度となくこのシーンを連想させられたのだが、このような最高のパフォーマンス状態を著者は「ゾーンに入る」と呼び、(いわゆる火事場の馬鹿力のような生命の危機に瀕さずとも)自在に引き起こせるとしている。......と書くと、いかにも怪しげに感じられるかもしれないが、本書は、少年時代は映画『ボビー・フィッシャーを探して』のモデルとして知られたチェスの名手であり、長じてからは太極拳推手の世界選手権覇者ともなった著者が、自身のチェスや武術の学習の足跡を丁寧にたどり、そのプロセスや心理状態を徹底的に解剖した記録である。
 この本は、一足飛びに能力を上げて、ごく一握りの成功者になるための魔法のような学習法を期待する向きにはおすすめできない。著者の眩暈がしそうな練習量や「負の投資」に圧倒されてしまうだろう。しかし、チェスと武術という一見何のつながりもない競技、それどころか、仕事や日常生活にさえ通底する、学びの喜び、ひたむきな基礎の積み重ね、今現在の自己を知ることに注目し、それらを大事にできる読者にとっては、パフォーマンス能力を上げるヒントに満ちあふれた、最良の指南書になるだろう。「覚醒」の日も遠くないかもしれない。

(東京大学出版会 小室まどか・評)



Theme 8 来るべき決断の時

時間かせぎの資本主義 いつまで危機を先送りできるか

時間かせぎの資本主義 いつまで危機を先送りできるか

ウォルフガング・ストリ-ク、鈴木直 / みすず書房
2016/02出版
ISBN : 9784622079262
価格:¥4,620(本体¥4,200)

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資本と国家の結託が民主主義を揺るがす。いま資本主義は危機の渦中にある。貨幣のマジックで危機を押さえ込む「時間かせぎ」はどこまで可能か。欧米で大きな反響を呼んだ、資本主義の新たな歴史。

ヴォルフガング・シュトレーク『時間かせぎの資本主義』(みすず書房)
 リーマンショックが起きたとき、政治部記者として自民党を取材していた。福田康夫が政権を投げ出して麻生太郎が首相に就任、一気に解散総選挙に打って出ようとしていた矢先のことだった。その後の展開は周知の通りで、「未曾有」の経済危機を前に解散権を封じられた麻生は追い込まれ解散で大敗を喫して歴史的な政権交代が実現した。
 このとき一体何が起きていたのか。政治の劣化か、代議制の機能不全か。いろいろ考えて、その後、本まで出したが、『時間かせぎの資本主義』を読んでいると、背景が見えてくる。
 本書は、1970年代以降顕在化し、2008年のリーマンショックで頂点を迎えた資本主義の危機を扱っている。そこで著者が描くのは、戦後の政治と経済の抗争である。ケインズが打ち立てたブレトンウッズ体制は戦前の破産から学んで政治が経済を制御したが、この力関係が70年代以降逆転していく(新自由主義の台頭)。「民主主義が市場を飼いならしているのではなく、市場が民主主義を飼いならしている」のが危機の根源にあるという。
 つまり、麻生が負けたのは結局、民主党ではなく、「資本の反逆」に対してだったというわけだ。ポピュリズム批判の背後に〈経済の論理〉を見て、当面の処方箋として「国民国家にまだわずかに残っている余力を動員する」ことを挙げているのも注目される。批判だけしていればよかった国民国家も風前の灯で、むしろ抵抗の拠点なのだ。危機は深まっている。

(白水社 竹園公一朗・評)


グロ-バリゼ-ション・パラドクス 世界経済の未来を決める三つの道

グロ-バリゼ-ション・パラドクス 世界経済の未来を決める三つの道

ダニ・ロドリック、柴山桂太 / 白水社
2014/01出版
ISBN : 9784560082768
価格:¥2,420(本体¥2,200)

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民主主義を犠牲にするか、国家主権を捨て去るか、グローバリゼーションに制約を加えるか?世界経済のトリレンマをいかに乗り越えるか?世界的権威が診断する資本主義の過去・現在・未来。

ダニ・ロドリック『グローバリゼーション・パラドクス』(白水社)
 TPPをめぐる交渉は記憶に新しい。なぜ日本はワシントンのロビイストを動員してアメリカにTPP推進議員連盟を作ったのか? それでもなぜアメリカ議会ではTPPが批准されそうもないのか? 経済学者は自由貿易を賛美するが、それならTPPなど何の抵抗もなく受け入れられるはずじゃないのか? WTO以来、自由貿易、いいかえるならグローバリゼーションをめぐる疑問は尽きないし、しかもいっこうに議論の収束点すら見えないのはなぜなんだろうか?
 著者のロドリックの前著は『ひとつの経済学、たくさんのレシピ』(One Economics, Many Recipes)。このタイトルからわかるように、市場と政治の関係を研究してきた経済学者だ。無色透明な比較優位の経済モデルから導き出される市場原理主義だけじゃこの複雑な世界はわからない、市場はむしろ政治=制度をとおした統治なしにはありえない、というのが著者の立場だ。
 なぜ東アジアモデルは成功したのか、なぜ国際的な金融危機が起こったのか、開発経済学の最先端の知見を活用して著者が最終的に提示するのは「ハイパーグローバリゼーション」「国民国家」「民主政治」の《さんすくみ》。そこからさらに資本主義3.0の青写真を描いていく。単純なグローバリゼーション批判にも賛美にも違和感を持った方にぜひてにとっていただきたい一冊。

(みすず書房 中林久志・評)

2016.09.05 特集[TOP]