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『あさきゆめみし』から『寄生獣』まで。知恵と知識が「学べる」マンガはこれだ! 『人生と勉強に効く 学べるマンガ100冊』 (佐渡島庸平、里中満智子ほか 著)【文藝春秋 本の話】

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 日本には、学校で習う教科の理解を助け、マンガという読みやすいかたちで知識を深める「学習マンガ」というジャンルがあります。

 それはそれで素晴らしい内容のものかと思います。

 けれども一方で、ドラマ性が豊かなストーリーマンガのなかにも、「学習」すべき知恵と知識がぎっしり詰まった秀作がたくさんあります。本書では、私たちが日々親しんでいる、それらのマンガのなかから、もしかしてこれは「学べるマンガ」なのかも、というものを選びました。

 取り上げた100作品は、ジャンル、レベルもさまざまです。チームと個性について描いた野球マンガ『キャプテン』をはじめ、スポーツものなどは小学生のお子さんでも安心して読める内容となっています。

 そうかと思えば、『ナニワ金融道』のような、社会の闇を扱った大人向けのものもあります。こちらは中学生、高校生以上の方には、是非とも挑戦して読んでいただきたいです。

 読み継いでいってほしい昔の名作も選んであります。なかでも手塚治虫先生による『火の鳥』は、不死鳥をモチーフとして、生とは何か、死とは何か、を問うた傑作です。マンガとしてのみならず、文学としても、おそらく世界最高レベルの作品でしょう。

 ある意味、日本のマンガは、すべての作品が「学習マンガ」かも知れません。そのなかからたった100作品を選ぶのは、難しい作業でしたが、この本を片手に、お子さんも、そして大人の方にも、良質なマンガをたくさん読んでいただければ、と願っています。

 ここでは、本書に収録された100作品のうち、2作品についてご紹介したいと思います。

里中満智子先生おすすめ その(1)
日本人の教養が学べる『あさきゆめみし』

 古文の授業で『源氏物語』に初めて触れる方も多いと思います。でも昔の言葉なので意味がよくつかめず困ったというときには、是非ともこのマンガを手に取っていただきたいです。とても分かりやすいですから。

 ページをめくると、華麗でドラマチックな世界が広がります。繊細なタッチで、十二単のディテールに至るまで、丁寧に描き込まれていて、平安時代ならではの雅な雰囲気を出そうという作者の努力が伝わってきます。

 物語は、いまからおよそ1000年ほど前の平安時代が舞台。帝の血を引く美男子・光源氏が主人公です。亡き母・桐壺の更衣の面影を追いかけて、あまたの女性遍歴を重ねていきます。葵の上という正室がいるにもかかわらず、義母の藤壺との道ならぬ恋に落ちる。さらには、藤壺を彷彿させる幼い紫の上を引き取って、理想の女性へと育て上げます。

 まさに光り輝く魅力を持つ光源氏をめぐって、さまざまな女性が登場します。たとえば才色兼備である年上の恋人、六条の御息所。嫉妬にかられて生霊となって葵の上に取り憑きます。このあたり、物の怪の存在が信じられていた当時の世界観があらわれていますね。また、器量は悪いけれども気だてのよい末摘花など、脇役キャラも生き生きと描かれています。

 その後、政争に敗れた光源氏は遠く明石へと流されるのですが、そこで明石の君との出会いを果たします。やがて晩年になって感じる孤独にいたるまで、じつに見事に描き切っています。

 かつて、作者の大和和紀さんがこんな裏話をなさっていました。作品を描く前には、必ず原文を声に出して読みます、と。

 実際のところ、幼い紫の上が初めて光源氏と出会ったときに「雀の子を伏籠に入れてあったのに、犬君がにがしてしまったの」と泣きながら訴えるシーンなど、原文にある「雀の子を犬君が逃がしつる」の雰囲気そのままですね。

 中国大陸からの文化を取り入れたのち、ようやく日本らしい感性や美意識が、独自の熟成をみせはじめた当時。その意味でも、日本人として知っておくべき教養の土台となってくれる作品ですね。

里中満智子先生おすすめ その(2)
生命とは何かを問うた傑作『寄生獣』

 ある日、高校生のシンイチの右手に、宇宙から降ってきた謎の生命体「寄生獣」が入り込みます。目玉を持ち、変幻自在にかたちをかえるそれをミギーと名付けたシンイチ。奇妙な共生関係がはじまります。

 そんななか、寄生獣の仲間たちが、次々と人間を襲いはじめます。寄生獣の使命とは、人間という種を食い尽くす、というものだったのです。

 夫のかたちをした寄生獣が、妻の頭をまるごとガブリと食いちぎったり、と画面が恐ろしいです。スパッと鋭利にまっぷたつにされるシーンも登場します。そして、やられた方は、何が起きているかすら分からない。

 寄生獣は、なぜ人間を襲うのか。そこには、人間がいなくなったら、環境問題も解決されるし、地球上のほかの生命が暮らしやすくなるのではないか、という問いかけもあります。

 右手だけミギーに乗っ取られた主人公は、悩みます。自分とは何なのか? かたちとは何か? 生命とは何か?

 われわれは、目、耳、触覚で他者を認識している。それがすべて崩れたときの恐怖心とは、どのようなものなのでしょう。そして、もし自分がそんな状況になったとき、人間はエゴイスティックにもなりえます。あっち側(寄生獣)になってしまって、早く楽になりたいと思うかも知れません。そのとき、あなたはどうするでしょうか。

 とはいえ、不信感だけでは生きていくことはできません。私たちは毎日、意識しなくても、自分と他者の関係について、確認作業を行っているわけです。

 このように、残酷マンガに見えて、じつは哲学的な命題をふくんだ傑作となっています。

2016.07.25 書評で読む  まなび コミック Fun!