ファシスト的公共性 - 総力戦体制のメディア学

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ファシスト的公共性 - 総力戦体制のメディア学

  • 著者名:佐藤卓己
  • 価格 ¥2,970(本体¥2,700)
  • 岩波書店(2023/08発売)
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  • ISBN:9784000612609

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内容説明

理性的討議にもとづく合意という市民的公共性を建て前とする議会制民主主義のみが民主主義ではない.ナチスの街頭行進や集会,ラジオの聴取が可能にした一体感や国民投票は,大衆に政治的公共圏への参加の感覚を与え,19世紀とは異なる公共性を創出した.メディア史の視座から日独の戦中=戦後を比較し,現在の問題を照射する.

目次

序 章 「ポスト真実」時代におけるメディア史の効用
一,ポピュリスト的公共性かファシスト的公共性か
二,言語論的転回とメディア史の成立
三,遅延報酬を意識するメディア史的思考
Ⅰ ナチ宣伝からナチ広報へ
第一章 ファシスト的公共性――非自由主義モデルの系譜
一,ブルジョア的公共性とファシスト的公共性
二,労働者的公共性と国民的公共性
三,大衆的公共性のニューメディア
四,民族共同体と国民社会主義
第二章 ドイツ新聞学――ナチズムの政策科学
一,第三帝国におけるメディア学の革新
二,ナチ新聞学の旗手
三,政治公示学の浮上
四,戦前「新聞学」から戦後「公示学」へ
第三章 世論調査とPR――民主的学知の“ナチ遺産”
一,協力と継続と沈黙と
二,メディア学の総力戦パラダイム
三,ジックスのナチ新聞学とノエルのアメリカ世論調査
四,過去からの「密輸」と「商標偽装」
Ⅱ 日本の総力戦体制
第四章 情報宣伝――「十五年戦争」を超える視点
一,総力戦パラダイムの「戦後」とは
二,「情報」という軍事用語
三,「情報」需要の軍民転換
四,情報宣伝から世論調査へ
第五章 メディア論――電体主義の射程
一,ラジオ文明と現代化
二,活字文化の放送化
三,ラジオ文明の文化ペシミズム
四,全体主義から電体主義へ
第六章 思想戦――言説空間の現代化
一,「閉ざされた言語空間」の連続性
二,内閣情報部と思想戦講習会
三,軍事技術と日本精神,あるいは監視権力と自主性
四,思想戦の現代化
第七章 文化力――メディア論の貧困
一,ソフト・パワーのメディア文化政策
二,「文化政治」と「文化政策」の記憶
三,戦前のソフト・パワー論
四,八紘一宇(グローバル化)と大東亜観光圏
五,空を目指す文化国家
あとがき――正直な「公共性」研究者の回顧
引用文献一覧
装丁= 桂川潤

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

おさむ

30
メディア史学者として知られる著者の論文集。なかなか刺激的な題名だが、ファシズムという言葉はかつては良い意味で使われていたこともある歴史を踏まえて、あえて使ったのだという。メディアという言葉はもともと「広告媒体」という意味しかない広告業界用語だった。情報という言葉は戦中、軍事用語として生まれて負のイメージが大きかった。文化力=ソフトパワーという言葉は戦前から使われていた‥‥。言葉のもつ歴史を知ったうえでその軛から解き放たれる大切さ。佐藤氏の一貫した研究姿勢がよく現れている学術書でした。2018/06/25

風に吹かれて

17
新聞・雑誌・ラジオや寄席という笑いの中にまで巧みに宣伝を潜り込ませ為政者の意図を実現しようとする民意誘導について、戦前戦中のドイツ、日本のメディア操作に関わる歴史から解説している。国会での議論より世論調査を重んじているように思える昨今の政治状況。世論調査の結果は少数派になることを嫌う国民の性向により多数派の政治的方向へ均一化する。「広報」というより「公示」である政府の宣伝活動の巧みさ・積極さに惑わされず正当な少数意見が表明できる本当の表現の自由のためにも留意しておくべき問題であると思う。2019/09/05

toiwata

5
終戦前後で断絶があるように見る史観は、虚妄であり他愛ない夢想であると理解できる。ドイツは首都ベルリンでの絶望的な決戦の後、”零時”を経験したが日本はそうではない。基本的には、”ethos”も変わっておらず、そのまま現在に接続されている。全く違うように見えるのはほんのわずかの修飾がほどこされているために過ぎない。一方には充分な合理性があるにもかかわらず、もう一方には現実の制約条件に目をつむる精神論が同居しているのだ。歴史は、善悪醜美の問題ではなく、思惑や願望でもない。2018/06/11

dzuka

3
マス・コミュニケーション学を1900年代前半まで遡ってその発生、発展を解析している。ナチスドイツや、アメリカのニューディールからのマスメディアの戦略的活用そして日本におけるそれらの吸収、戦後への踏襲も分析されている。 学術書のため、前半はついていくのが難しいが、新聞学や宣伝の発展の歴史は、わかりやすい。ナチスだからなんでも研究対象に値しないという立場は本質を見落とすという著者の主張には、首肯せざるをえない。 沈黙の螺旋理論も、今こそ議論されるべき話だし、今のマスメディアの混乱の原因をもひもとく一冊では。2020/08/01

フォン

3
本邦のメディア学の碩学による大著。扱う範囲は日本とドイツのアカデミズム、政府、軍部と多岐にわたるが、総力戦下におけるメディアとハーバーマスが無視するファシスト的公共性の概念から、戦後一般化された通念に疑義を投げかける姿勢は読んでいて痛快。あとがきにあるように筆者のかような神話解体的姿勢は年長の研究者からの反発を呼んだらしいが、それも肯ける。とはいえ、筆者が紫綬褒章を授与されたことは、筆者が本邦アカデミズムにおいてヘゲモニーを獲得したという証左なのだろう。 苦難な道を歩んだ筆者に敬意を表したい。2020/07/29

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