内容説明
これは、山ではないか。
シナンは、その巨大な石の建造物の前で、そう思った。
この積みあげられた石の量感は、まさしく山であった。その山の量感が、そこに立った瞬間、シナンに襲いかかってきたのである。
山を、人間が作ることができるのか。
シナンは、感嘆の声を心の中で洩らしている。
一六世紀、壮麗王スレイマン大帝のもとで繁栄を誇るオスマントルコ帝国に、工兵から宮廷建築家へと昇りつめた男がいた……。「石の巨人」と呼ばれ、史上最大のモスクに挑んだ天才建築家シナンの生涯を描く。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
優希
40
面白かったです。オスマン・トルコを舞台にしているというだけで興味深かったです。下巻も読みます。2024/03/01
キムチ27
39
筆者の多才ぶりがトルコイスラム建築史で開花。シナンとは16C活躍したイスラム圏の建築家。だが、才能が開いたのは壮年期になってから。100歳までの長寿であった彼がどのような政治・芸術的環境で生きて行ったかを上下巻でじっくり描いている。上巻では殆どど知られていない若き頃をエピソードが巧みに織り込まれている。塩野氏で十字軍を読んだ頭にはぐるりと回転させられる感強し。当時の欧州の覇権争いと次々と名乗り上げるスルタン達。ギリシャ人のシナンが「強制改宗」の時期を幾度も経てある意味、人間的に深まって行くさまが掴めない。2014/03/30
コニコ@共楽
24
スレイマン=モスク(トルコ語でスレイマニエ・ジャーミー)を見て、俄然ミマール・シナンに興味がわきます。アヤ・ソフィアを超える建物を作ることを夢見たシナン。謎多き若き日をたどる物語は、どこか冒険めいてワクワクします。オスマントルコの歴史、その頃の世界情勢も垣間見れて面白いですね。キリスト教同士の争いが権力闘争まみれだったことも見えてきます。フランスのフランソワ1世とスペインのカール5世との争い、ヴェネチアの外交の妙味など、世界史を振り返って、オスマンの強さを再認識した次第です。シナンの成熟の物語はこれから。2023/04/24
びっぐすとん
18
【私的冬季課題図書】以前著者がTVで紹介していたので。イスタンブールに燦然と佇む巨大なモスク、スレイマニ・ジャーミー。ビザンチンの遺産アヤ・ソフィアを凌ぐモスクを設計したシナンの人生。上巻は前半生。シナン氏、大器晩成にも程がある。この時代の寿命からいったら普通なら芽が出ないで終わっちゃうよ。上巻ではまだ芽は出ていない。著者の解説がちょいちょい入るのでオスマントルコの歴史や制度が解りやすい。この時代のキリスト教国の方がよっぽど野蛮だ。教会やモスクは神の為にあるのか、人の為にあるのか、考えたこともなかったな。2020/12/28
ハッピーハートの樹
15
16世紀、オスマン最盛期、建築家シナンの物語です。建築家としては50歳くらいからとのことで、上巻ではあまり表に出てきませんでした。国、宗教、戦争。ロマン溢れる時代ですよね。歴史背景のお話だけでも楽しいです。オスマンと西欧諸国の争いは宗教的な要因が大きいのかとイメージがありますが、その辺は比較的フラットな感じと言うか、宗教的な拘りは描かれてなかったです。聖ソフィアだってキリスト教もイスラム教も超越した、もっと崇高なものとして感じました。神をやどす建築、自分の手でそんなものが作れたらどんな感じがするのだろう。2016/08/18