内容説明
【第157回芥川龍之介賞候補作】“四歳の私は、世界には二つのことばがあると思っていた。ひとつは、おうちの中だけで喋ることば。もうひとつが、おうちの外でも通じることば。”台湾人の母と日本人の父の間に生まれ、幼いころから日本で育った琴子は、高校卒業後、中国語(普通語)を勉強するため留学を決意する。そして上海の語学学校で、同じく台湾×日本のハーフである嘉玲、両親ともに中国人で日本で生まれ育った舜哉と出会う。「母語」とはなにか、「国境」とはなにか、三人はそれぞれ悩みながら友情を深めていくが――。日本、台湾、中国、複数の国の間で、自らのことばを模索する若者たちの姿を鮮やかに描き出す青春小説。
目次
出発前夜
上海にて
再び、出発前夜
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
榊原 香織
92
台湾の中国語は国語と言って、中国の普通語(標準語)と違う部分もある。 特に発音、日本人が苦労する剣舌音は台湾にはない。台湾ハーフ、日本育ちの主人公が上海短期留学して、台湾と中国の複雑関係をチラ見。 青春物としてなかなかいい。2021/03/24
なゆ
60
ハーフといえば、私なんかは漠然と“自然と二か国語話せるようになって、いいなぁ”と思っていたが、そう単純なものでもないのかもしれない。台湾人の母と日本人の父をもち日本育ちの19歳のミーミーの、一か月間の上海への語学留学。ミーミーもリンリンも、それぞれの壁にぶち当たって悩み苦しむ。台湾人ということが、中国ではこんな風に思われていることも複雑だ。日本と中国と台湾の間で、宙ぶらりんな不安定さにさらされるような。“あいのこ”、ひさしぶりに聞いたけど、“愛の子”に変換するというのはいいね。2018/01/18
K(日和)
45
ハーフであること、どちらでもあること、どちらでもないこと。言語的コンプレックスがあること。様々な見えざる苦悩が描かれる。そしてそれはマイノリティであることに収斂するのではないか。リンリンの怒りがセカンドレイプを受けたハラスメント被害者のやり場のない怒りに重なる。アイデンティティにまつわる問題。いわゆる純ジャパ、ふつうの日本人には予想すらできない問題意識の発生。今までの人生で自分が粗相をしていないか慌てて振り返る。2018/01/31
千穂
40
母が台湾、父が日本人、台湾で生まれ小さい頃に日本へ帰り日本人として生きてきた琴子。上海に中国語を学ぶために留学し、様々な仲間と触れ合い、自分のアイデンティティに悩み揺れる。上海でも北京でも台湾でも皆中国!なんて自分は大雑把に考えていたな!対岸の他人事と捉えていたなと反省した。知らない事を知る学習ともなりました。2018/10/28
星落秋風五丈原
32
日本人でも中国人でも台湾人でもない自分のアイデンティティを形作るのは言葉だった。読み易い文章。芥川賞候補作。2017/08/18