内容説明
小学館ノンフィクション大賞紛糾の問題作!
2015年3月9日、当時36才。私は、男性器を摘出した。
「女になった」と言わない理由は、この選択が女性になるためじゃなく、自分になるためのものだったから。だから私は、豊胸も造膣もしないことを選んだ。
「性同一性障害」という言葉が浸透して、「性はグラデーション。この世は単純に男と女には分けられない」と多くの人が理解する時代にはなったかもしれない。けれども私は自分の性別を、男にも、女にも、二つのグラデーションの中にも見つけることができなかった。
男であれず、女になれない。
セクシャリティが原因でイジメにあったことはない。事実はその逆でみんな優しかった。でも、男子クラスになったことを機会に私は高校を中退した。
女性を愛する男性に命がけの恋をして、葛藤し、苦悩して、半死半生の状態に陥ったこともあった。ひたすらに自己否定を繰り返したりもしたけれど、周囲の誰もが私を一生懸命に支えてくれた。
そして社会人である今、多くの人が愛情と親しみを込めて私を「しんぺいちゃん」と呼ぶ。
これは、人生に同性も異性も見つけることができなかった一人の人間が、自らの“性”を探し続ける、ある種の冒険記です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
わん子
22
トランスジェンダーフェミニズムと併読。この方がフェミニズムと出会っていれば、そんなに苦しむこともなかったのでないのか、と思わずにいられないほど、マジョリティ社会に押しつぶされ、苦しそうな思いが伝わる。生まれが男性だとフェミニズムは届きにくいのかも... 大学時代の恋の話は力強くピュアで、私もこんな恋したなあ、と共感。同性愛の恋愛感情は周囲の強制のない、自分の力で見つけた生きる原動力だから、ヘテロのそれよりかなり純度が高く麻薬的かも。フェミが届いて欲しかったけど、自分の弱さを自分の力で考え抜く強さも感じた。2021/02/11
白義
17
Xジェンダー。男でもなく、女でもない、どちらにも違和を覚えるゆえに選択した性別。本書はそんな決断をした著者の、決断に伴う手術の予後や、それに至る人生を平易に綴った一冊だ。女は女に生まれるのではなく、女になるのだ、という言葉があるが、男か女に「なれる」なら楽なことはない。どちらにもなれない……いや、セクシャルマイノリティという大雑把なポジションにすら安住できないからこそ「私」を選び取る他なかった著者の、その決断全てと、それにつきまとう生涯の悲喜こもごもを真正面から受け止めるストレートな筆致が好感を持てる一冊2018/06/20
4fdo4
16
自己の性の不一致の話なのだが、行きつく所は性別適合手術や戸籍の性別変更ではない。 男である生きづらさはあっても、女になる気のない著者の選択は私の想像を超えたものでした。 性別は2種類しかないという、その常識に当てはまらない時、人は苦しみもだえる。 2019/12/31
ゆりこ
10
ウェブで鈴木さんのことを知り、購入。ジェンダーの「揺れ」がある生徒に接する機会が多いから、勉強しないと。読んでいくうちにどうしても、手術前後の描写が痛々しく、ちょっと手が止まった 。これからの鈴木さんを応援したい。2017/07/29
みつ@---暗転。
10
**** LGBTQ云々に無理やり分類するなら、Qに属するXジェンダーな著者のとある決断。現段階では曖昧な自認を持つ僕の個人的な悩みとも共通する部分があって苦しい部分も多かった。僕もある程度は幸せで、ある言葉に勇気づけられながらも確固として孤独にもなっているのかもしれない。心と体の同一性の欠如は、どれほどの苦痛か。しかし同時に、信平さんは幸せ者だな、と。家族にも友人にも恵まれている。自身の矜持を明確に持ち、尚且つ貫くのは紛れもない強さ。まだまだ認知が充分でないXとして生きる一人の先達に、敬意を表したい。2017/05/03