内容説明
ヨーロッパ各国に連日大勢押し寄せる「難民」.一人ひとりの素顔,その苦悩や希望とは? 受け入れ側の論理や戸惑いは? ドイツを目指すアフガン人一家の逃避行に,一人の記者が寄り添い,世界的課題の実態と,背後に横たわる重い歴史に迫る.複雑で「遠い」問題が,すっとストレートに伝わってくる,第一級の同時進行レポート.
目次
目 次
序章 出 発
第一章 ギリシャ
プッシュ要因
第二章 旧ユーゴスラビア
アフガン──遠い平和と安定
第三章 オーストリア・ドイツ
地球規模の課題
第四章 排除のハンガリー
シェンゲン協定
第五章 贖罪のドイツ
振り子のようなドイツ世論
第六章 再 会
主な参考文献
あとがき
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
どんぐり
71
欧州を目指す難民の経由地となっているトルコ沖のレスボス島。一人娘のフェレシュテちゃんを抱えたアリさん一家はアフガニスタン出身の難民でギリシャからマケドニア、セルビア、クロアチア、スロベニア、オーストリアを経てドイツを目指していた。2015年11月、記者はこの一家に寄り添ってバルカンルートをたどる。このルポは、難民や移民がどのように移動し、欧州入りしたかを追跡した記録だが、「まるで国家がプレイヤーとなって、自分の国にはいてほしくない難民や移民をジョーカーに見立てた、トランプのババ抜きゲームをしているような展2017/01/10
kinkin
67
故郷アフガニスタンからギリシャを経てドイツを目指すアリさん一家と同行しながら取材する著者。彼らのような難民の多くが現在もヨーロッパの向かって移動を続けているという。日毎に途中の国々の対応は厳しくなっている。ポピュリズム(大衆迎合主義)が世界各国で頭を持ち上げてきた。その渦中で振り回されている難民。一体いつになったら難民という言葉が無くなるのだろう。そして同じような数の難民がもし日本にやってくるとしたらどんな対応ができるのか出来ないのか。よその国の出来事ではないことを知り考える時期だと感じた。図書館本2016/12/14
カザリ
39
ドイツも苦しいけれど、難民を放置したら、それがテロにつながる。これを考えると、苦しいときはみんなで痛みを分け合うっていうことが、正しい共生の道なんだろうな、と思う。自分の身に置き換えると、たとえば安全保障のために、税金があがる、とかね。でも、問題は難民をいつまで税金でサポートできるかってこと。普通の国民だって、仕事がなかなかない時代だからなあ。考えると、ほんとうに頭痛くなる。。でもメルケルのしていることはほんとうに偉いと思う。みんなでサポートしあうしかないと思うよ。。2017/01/24
skunk_c
19
アフガンやシリアからドイツを目指す難民の一家族と同行・追跡しながら、その実態に迫るルポ。出来事を脇役化し、家族という「人」を主語にしたため全体に人間的ぬくもりが感じられる。ギリシャのルーズさ、犬猿の仲のセルビアとクロアチアが協力して難民を「通過」させる本音、シェンゲン協定の外側に急作りの「壁」を仕立てるハンガリーの内政事情など話題は多岐にわたる。ドイツの難民受け入れの背後にあるナチスのユダヤ人虐殺も、ある人物に焦点を当てたため奥行きが出ている。難民を一方的にかばうのではなく批判的に見る眼も確かな好著だ。2016/12/19
Nobuko Hashimoto
18
2015年、欧州に大挙して押し寄せた難民の大移動に新聞記者である著者が同行したルポ。ただし、記者は難民用の移動手段は使うことができず、取材対象者であるアフガンからの難民、アリさん一家とはぐれたり待ちぼうけを食わされたりする。その間の難民一家の移動や生活の様子がわかりづらく、記者の苦労談が印象に残ってしまった。ドイツの手厚い難民保護に対して極右政党が勢力を伸長するのもわからなくないという記述はひっかかる。弱者は徹底して貧しくあらねば、苦難を耐え忍ばなければいけないだろうか。ほか気になる点をブログに記録。2017/03/09