内容説明
仮装舞踏会で被せられたサンタクロオスの仮面の髯がマッチを摺るとめらめら燃えあがる、象徴的な小説の冒頭。妻を亡くした、著者を思わせる初老の作家稲村庸三は、“自己陶酔に似た”多情な気質の女、梢葉子の出現に心惹かれ、そして執拗な情痴の世界へとのめり込んでゆく。冷やかに己れのその愛欲体験を凝視する“別の自分”の眼。私小説の極致を示した昭和の名作。第1回菊池寛賞。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
佐島楓
61
老境にさしかかった作家と、若い女性との化かし合い。ずるい女と、女を得ることで自信を回復していく男との、どうしようもない関係が描かれている。ひたすら女性に振り回される様子は、読んでいて気持ちのよいものではなかったが、一定の理解もできるように思えてしまうのが、この作家の観察眼のすごさである。2016/10/03
しゅん
15
中村光夫『明治文学史』を読んでいて、久々に秋声を読みたくなった。60代の頃に書かれた本作は、妻を亡くした後の若い女との締まりの無い恋愛を締まりの無い構成で綴っていく私小説で、今の私は一方で退屈しながら、もう一方で描写の質感を楽しんでいる。しかし、この事件は世間にも知られたものらしいから、当時の読者はゲスな楽しみと芸としての枯れた感触を混ぜ合わせたエンタメとしても読んでいたのだろう。情事の描写が排除されつつ仄めかされていて淫靡。葉子の着物への細かい描写は、終幕の一文におそらく繋がっている。2022/03/05
fseigojp
12
ほぼ実話 これは初老作家の痴人の愛 2015/07/30
ja^2
5
これは時代に乗り遅れまいとする老作家・庸三の足掻きとして読むべきだとする見方もあるようだ。若い女弟子・葉子との恋愛沙汰の形を通して──というのだ。だが、それは深読みのしすぎってものだろう。▼むしろ、若い子のケツを追っかけていて、気が付いてみたら時代はすっかり変わっていたと素直に読めば良いのではないだろうか。そもそもこれを恋愛だと考えているのは庸三ばかりで、葉子はそんなつもりは微塵もないように思える。▼客観的には単なる金ヅル、あるいは物書きとしての後ろ盾か──。しかし本人だけはそれがわからないのだろうな。2018/10/18
なすび
4
1日1ページで1年かけて1周っていうのを50回くらいやって死にたい。2021/02/14