内容説明
北欧で消息を絶った日本人女性の精神的彷徨。
織物工芸に打ち込んでいた支倉冬子は、一枚のタピスリに吸い寄せられ、魅惑されてしまう。ついにはヨーロッパに留学する決意までした冬子。だが、冬子は、ある夏の日、その地方の名家ギュルンデンクローネ男爵の末娘エルスと孤島にヨットで出かけたまま消息を絶ってしまう。
冬子が残した手記をベースに、生と死、または愛の不安を深く掘り下げた小説となっている。絶対的な孤独の中、日本と西欧、過去と現在を彷徨しながら、冬子はどのように再生していくのか……。
辻邦生が自著『生きて愛するために』で語った「死というくらい虚無のなかに、<地上の生>は、明るく舞台のように、ぽっかり浮かんでいる」という彼の死生観とともに、西欧的骨法によって本格小説を日本に結実させんとした、辻文学初期傑作の一つである。巻末に「創作ノート抄」を併録。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
etoman
2
読書会での課題図書じゃなかったら手に取らなかったし、ましてや最後まで読み切ることも無かっただろう。僕の好みとはまるっきり異なる小説でしたが、不思議と読み終わった時に読んで良かったと思った。これまで、文章を味わいながら深く文学作品の世界観に浸るような読み方をしていなかったんだということを理解できた。これからはもっとそういう読み方をしていきたい。とはいえ、冬子の言う「苛酷に事実」が具体的に何なのかが最後まで分からなかったところは、現国のテストに合格していないようで気持ち悪い。2020/05/18
やなせトモロヲ
1
★★★☆☆2022/02/26
Ash.jp
1
辻邦生の作品の中でも最も好きな小説。まずタイトルから素敵。美とは何か永遠とは何か。ひたむきに生きる冬子が羨ましくもあり悲しくもある。2021/10/21
春雨のオアシス
0
先日読んだビブリオミステリーに名前が出てきたので読んでみた。透明感のあるひんやりとした文体(決して冷たいわけでは無い)が結構特徴的だった。2022/05/11