内容説明
【第25回野間文芸新人賞受賞作】首相公選制がしかれた近未来の日本。投票を明日に控え、かつてのサッカーのスタープレイヤーだった政治家・長田が圧倒的な支持率で最高権力者になろうとしている。人々はこの清新で危険なにおいのするカリスマに夢中だ。だが、果たしてこの選択は正しいのだろうか? わたしたちはどこへ向かっているのか? 忍び寄るファシズムの空気を濃厚に描く傑作小説集。
目次
砂の惑星
ファンタジスタ
ハイウェイ・スター
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
272
表題は"fantasia"の派生語ではあるのだが、「ファンタジー」とといった日本語の語感からは遠く、サッカー用語で「ストライカー選手に対する賛辞」といった意味であるらしい。この語を冠した表題作は、サッカーを世界の喩として捉えるのではなく、これを逆転させて世界をこそサッカーの喩として表現しようという試みである。その意味では実験的な小説なのだ。ただ、私にはその試みを諒解はするものの、成果は曖昧なままに終わったようにしか思えない。「砂の惑星」も、シュールレアリスティックではあるものの、今一歩突き抜けないようだ。2017/04/03
長谷川透
14
土着色が強く、山間部の秘境を舞台にした「砂の惑星」、独裁者の誕生を臭わせる「ファンタジスタ」はガルシア=マルケスの二大代表作を彷彿とさせる(「ハイウェイ・スター」は完全な幻想文学のように思う)。確かに日本からラテン・アメリカに移民した者は多くいたし、向こうから日本に移住してくる外国人も多く、この国も<坩堝化>が始まっているのかもしれない。単なる手法の模倣だけではなく社会的な問題にも踏み込んでいる点は評価できるが、魔術的リアリズムというのはやはり、ラテン・アメリカの土着あって成功するのだと認識させられた。2012/12/06
kozu
7
どこか不思議で独特な3編。砂の惑星が好み。2017/11/30
Mark.jr
6
ドミニカの日系移民をラテンアメリカ文学と共振する書き方で扱った「砂の惑星」。サッカーを題材にスポーツと社会・政治の関係性を描く表題作「ファンタジスタ」。デビューした頃の石井岳龍映画をなんとなく思い出させる「ハイウェイ・スター」。ほのめかすようなやり方ではなく、ポリティカルな要素とガッツリ組み合った短編郡は、村上龍作品と通ずるものがありますね。2023/06/05
hwconsa1219
5
独特の世界観ですね。表題作の「ファンタジスタ」は、架空の情景を描いているとはいえ、ポピュリズムや熱狂など、現実にありえそうな描写が散りばめられてます。「ウラワ・レッヅユース」「タマモト世代」など、微妙な名前が出てくるのも別な意味でまた一興ですね。2016/03/07